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M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 モタスポ撮影レビュー(D1GP ALL STAR SHOOT-OUT)

2019年4月4日

オリンパスから発売された新しい交換レンズM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3。広角から超望遠までをカバーする高倍率ズームレンズはモータースポーツ撮影では使えるのか?今回はドリフトカテゴリD1GPのキックオフイベントに持ち出してその写りや使い勝手について考えてみました。

「普段のスナップや旅行の時に便利だから買ってみたけど、なかなか画質もよくてむしろモータースポーツ撮影向きなんじゃないか!?」というところなのですが、作例をつけて詳しく紹介します。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3

主な特徴

このところPROレンズを中心に開発していたオリンパスが久しぶりにスタンダードグレード向けに作った高倍率ズームレンズです。

  • 35mm換算焦点距離24〜400mmをカバーする16.6倍の高倍率ズーム
  • 小型(φ77.5×99.7mm)、軽量(455g)、と持ち歩きに便利なコンパクトなサイズ
  • PROグレード同等の防塵防滴仕様

他にも近接撮影に優れ、このクラスでは比較的高い描写性を持つレンズとしてすでに雑誌や販売店ブログなどで評価されています。

外観とカメラ装着イメージ

初期のオリンパスのレンズの外箱といえば、青と白のツートンに外観写真が特徴的でしたが、最近はPROレンズと同等のブラックに焦点距離が大きく印刷された外箱に変わっているんですね、シブい。同梱品は、レンズのほかにフード、レンズキャップ、説明書、保証書。

レンズ鏡胴はスタンダードグレードなのでプラスチック製ですが、表面がマット仕上げなのと、ピントリング/ズームリング(マウントに近い方がズームリング)の緻密なローレット仕上げのおかげで安っぽさはありません。フードはLH-76Cで、これはM.ZUIO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROと同じもの。広角側のケラレに配慮してか、それほど大きなフードではありませんが、望遠側でちゃんとハレ切りできるかちょっと心配ですね。

E-M1markIIに装着するとこんな感じ。高倍率ズームとしてはコンパクトではあるものの、φ77.5mmもあるのでOM-Dシリーズにはいいバランスです。逆にPENシリーズにはあまり似合わなそうです。

望遠側めいいっぱいまでズームすると倍近くまで伸びます(笑)12mmから100mmを過ぎるあたりまでスムーズに伸びたあとに120〜150mmあたりで若干抵抗があり、そのあと200mmまで一気に伸びる操作感があります。他のユーザーのレビューにもこの100mm越えたあたりで一旦抵抗があることが書かれているので、手首の感覚でズーム状態がわかるような仕様なのだと思われます。

このレンズに期待すること

今回このレンズを購入した理由は、高倍率ズームであることと、防塵防滴であることです。

高倍率ズームということで、実際に私も普段の旅行や行楽での家族や子供の写真を撮る際に便利そうだなという理由が半分ありますが、前回も書いたように、モータースポーツ撮影の場合、広角側12mmならピットウォークなどの選手やRQ、整備中のマシンなど被写体が近い時に、望遠側200mmなら観客席からコース上を走行するマシンなど被写体が遠い時に、それぞれレンズ交換なくシームレスに対応できる点が強みになってくれそうです。

また、ウェットコンディションになった場合は、そもそもレンズ交換自体できないわけですから、防塵防滴であれば躊躇することなく撮影を続けることができます。(ただし、このレンズに関してはフードが小さく、前玉にフッ素コート等はないようなので、撥水タイプのレンズ保護フィルター等を付けて雨滴がついたままにならないよう対策が必要かと思います。)

D1GP ALL STAR SHOOT-OUTについて

ドリフト文化とD1GP

日本のモータースポーツファンにはドリフトとD1GPの説明をわざわざする必要はないかもしれませんね。一般的なサーキットレースがより速くコースを回るためにタイヤのグリップをしっかり使うことを重視するのに対して、いかにキレイにカッコよく4輪を滑らせながらコーナーを抜けるかを重視するのがドリフト競技で、そのトップカテゴリーがD1GPです。

競技はタイムではなくその技術の正確さを競うという点で、いかにも日本発祥のカテゴリーという感じです。ドリフトのカッコよさを競うという意味では、写真映えするカテゴリーなのは間違いありません。

D1GP ALL STAR SHOOT-OUT

2019年シーズンのキックオフイベントとなるのが、今回お台場で開催されたALL STAR SHOOT-OUTで、ここ数年はキックオフイベント(シリーズ賞典外のエキシビジョン)をお台場の特設会場で行うD1GPですが、2020年の東京オリンピック開催にともなう都内会場整備のため、お台場は今年が最後とのことでした。

このイベントは3/23と/24の2日間、昼間開催の第一部と夕方夜開催の第二部の都合4回実施されます。会場は普段は臨時駐車場となっている場所に特設スタンドを設置したもの。競技を行うコースを囲むように、座席指定のA,Bスタンドが向かい合って設置され、Bスタンドの横には立ち見エリアが設定されています(いずれも有料)。私は24日の第一部をスタンド席のチケットをとって観戦してきました。

f/9 1/400sec ISO-200 12mm

開場後間もない(10:30頃)Aスタンド上段席からの様子。初日23日が天気が悪くて寒かったようですが、この日は一転好天で季節外れの日焼けをしたくらい。写真はさっそくM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3の広角端12mmを使って撮影したものです。画面左上に太陽がありますが、各所のレビューでも言及されていたように、不快なゴーストは少なく、解像も良好なようです。

12−200mmでD1マシンを流し撮り

今回は、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3のみ使って撮影しました。カメラはE-M1markII。特に記載のない写真はいずれもトリミングなし、OLYMPUS WORKSPACEにてRAW撮影データから露出や若干の色味の調整をして1080×1440ピクセルでJPEG出力したものです。

スタントバイク/FMX

イベントのオープニングは、Monster Energy Kick Off Showと題して、Monster Energyのサポートを受けるバイクのショーから始まりました。

f/10 1/80sec ISO-64 200mm

f/14 1/80sec ISO-64 200mm

スタントバイクは、バイクの曲乗りみたいなのですが、昔のサーカスのそれとは違って車種や出で立ちがずっとスタイリッシュで、エクストリームバイクという立派なX系スポーツのカテゴリなんですね。バイクに明るくないので車種や排気量(250cc?)までわかりませんが、BMXのごとく軽々と乗りこなしてました。

私が観戦したAスタンドからは距離があり(パドックや立ち見エリアの方が近い)、さっそく望遠端200mmでの撮影です。2枚共に画角が広すぎるのでトリミングしています。

f/11 1/80sec ISO-64 200mm

f/10 1/60sec ISO-64 200mm

こちらも望遠端200mmでの撮影です。FMXにいたっては、ジャンプ台がAスタンドの対角反対側で一番遠くてこの画角。なのでトリミングしたものです。10m程度の助走でジャンプ台に向かい、そこから10m程度の高さまで飛んだかと思ったら頂点でエアを決めていきます。

AFはAF-C+TRでスモールターゲットを使ういつものスタイルですが、AF動作は高速でもたつくことはありません。流し撮りのため細かい解像や収差などについては評価できないレベル。画面左上に太陽が位置する午前中ですが変なフレアやゴーストが入らないのがいいですね。

単走

単走は文字通り単独走行でドリフト技術の正確さを競う競技。コースとしては、Bスタンド側から実況ステージの前を通りすぎてAスタンド前へ抜け、そのまま反時計回りに回ったあとに振り返ってBスタンド側へ抜けるもの。ちょうどBスタンドから実況ステージ前を通るときがフェンスなどの邪魔がないスイートスポットです。

f/13 1/100sec ISO-64 200mm

望遠側200mmで撮影したS15。競技序盤でまだシャッタースピードをおそるおそるスローにしながら撮影した1枚で、背景の整理のためトリミングしています。AF-C+TRでフォーカスのスピードはPROレンズと同等かちょっと遅いくらい。私の持っているレンズで比較すると、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO ≧ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 > ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD、といったところ。サンヨンもフォーサーズ50−200mmも、43RacePhotosでは十分なAF速度であることをお伝えしていますので、12−200mmが十分使えるAFだということはおわかりいただけるかと思います。

また、S15のフロントラジエターなどのフォーカスのあった場所をみれば、PROレンズほどでないにしてもしっかりした解像感があることがわかります。望遠側200mmの画質についてはそれほど評価が高くないレビューが多いですが、PROレンズと比較した場合であると思われます。

f/16 1/100sec ISO-64 200mm

FD3Sは、E-M1markIIのAFが得意とするバックショット。こちらもAFに遅れなどなく使えることがわかります。

f/20 1/30sec ISO-64 200mm

今シーズン初の1/30sを超えるスローシャッターが成功。立ち見エリアの観客がほどほどに流れてリトラの180SXもいい構図で止めることができました。

望遠側200mmで開放F.6.3というのは構造上どうしても暗めで屋内での撮影には使いにくく、屋外でも条件が限られる、との指摘があります。ですが、スローシャッター流し撮りのシーンになれば、絞り気味なのが常でしょうし(NDフィルターを使うことによる解像感の悪化を取るか、小絞りボケによる画質悪化を取るかという話はありますが)、これだけコンパクトだとレンズを正確に振ることも楽なので、むしろ流し撮り向きといってもいいかもしれません。

f/14 1/60sec ISO-64 100mm

少し引いて100mmで撮影。このタイヤスモークの激しいソアラを撮影したときに気づいたのですが、E-M1markIIでデフォルトのESP測光だとタイヤスモークに露出が引っ張られてアンダーで撮影されてしまいました。気づいてからはスポット測光に変えて対応。

f/18 1/30sec ISO-64 200mm

こちらもスローシャッター成功例。レクサスのスピンドル・グリルを付けた86が、マットブラックの塗装でシブい。

この写真に限らず、好天のためにフロントウインドウに反射した太陽光がキレイな光条を描いていますが、不快と思えるような余計なゴーストやフレアの発生はなく、口径72mmとマイクロフォーサーズレンズとしては比較的大きな前玉にすぐれたコーティングが施されていることがわかります。

追走トーナメント/ショットガントーナメント

2台が一緒にドリフトを行うのが追走です。その名の通り、先行するマシンのドリフトに追走するマシンが合わせてドリフトしその接近度合などでドリフトの技量を比較する競技です。単走の得点上位者がトーナメント方式で行います。一方、今回エキシビジョンとして行われたのがショットガントーナメント。2台同時にスタートして途中で左右対称のラインを走り、途中でラインを交錯させながらドリフト、最終的にどちらが先にゴールするかを競うもので、ラインを交錯する瞬間は正面衝突の危険もあるスリルある競技でした。

f/18 1/40sec ISO-64 200mm

横一線でスタートするのは、ショットガントーナメントの一幕。スタート直後のフル加速状態でフロントが浮き気味?この後に2台は画面左右に別れて対称にドリフトしていきます。

f/18 1/30sec ISO-64 149mm

追走トーナメントからの1枚。背景整理のためにトリミングしています。ピッタリついてドリフトし始めたのがついに接触!の瞬間。

焦点距離149mmは、オリンパスのカメラだとWズームレンズのキットに付属する40−150mmでも対応できる焦点距離。都市型のこういったイベントでは特別大きな望遠レンズでなくても十分楽しめるということですね。

f/13 1/30sec ISO-64 124mm

スタート位置で望遠側200mmにして2台を追いかけ始め、ドリフトの態勢でコーナーにアプローチしたあたりで2台が画面に収まるようにズームアウトしてからシャッターを切ったために124mmという半端な焦点距離となっています。100mm〜200mmの範囲をシームレスに変えながら撮影できるのはコンパクトながら焦点距離の長いズームレンズの一番のアドバンテージでしょう。

f/16 1/40sec ISO-64 87mm

A90スープラが実戦で活躍するのは世界でもこのD1が初めてとなりました(他のイベントでは市販車やコンセプトカーのお目見え程度ですね)。こちらの1枚もファインダーで2台を追いながらズームアウトして構図をみながら撮影しました。

f/22 1/10sec ISO-64 25mm

さらにズームアウトして1/10sのスローシャッターに挑戦。今回は72mmのNDフィルターを用意できなかったため、めいいっぱい絞ってF22で撮影しましたが露出オーバー気味(RAW現像時に露出調整)。

構図にもう少し工夫はいりそうですが、高倍率ズームレンズなら次々と変わる競技の進行に焦りながらレンズ交換する必要がなく、あれこれ試行錯誤する余裕が持てますね。

f/22 1/15sec ISO-64 12mm

追走側が途中でドリフト失敗したために単走状態。今度は広角端12mmでスローシャッター。かろうじて上空の青を残しつつ、画面下半分に円形の会場を流して撮影できました。

f/22 1/15sec ISO-64 12mm

広角端はやはり通常の横向き構図の方がいいかも?一般的には35mm換算焦点距離50mmの画角が人間の視野に近いと言われていますが、スタジアム状に観客席を設定したこのイベント会場の場合は、この12mmで撮った光景の方が記憶に近い印象です。

ここまでの流し撮りの写真全般におけることですが、手ぶれ補正については、IS-AUTO(全方向流し撮り自動検出補正)、MODE1(流し撮りの縦ブレ補正)、手ぶれ補正OFFを撮影しながら適宜切り替えていますが、流し撮りの成功率に関してはOFF > ISーAUTO ≧ MODE1といったところです。このレンズのネガとしてレンズ手ぶれ補正がないことが挙げられますが、流し撮りにのみ関しては、手ぶれ補正よりも被写体ブレ、つまり被写体の動きに追従してレンズを振れるかどうかの方が重要だと考えます。

イベントエリア

このイベントには、競技とそれを観戦するための有料エリア以外に、関連メーカー、団体のブースが並ぶ無料エリアもありました。ブースによっては車両展示もあったので数枚撮ってみました。

f/10 1/500sec ISO-200 14mm

UP GARAGEのブースにD1仕様のAE86。お台場で無料イベントエリアとあってお客さんが多く、どうしても被写体に近づかないといけない(離れると前を横切られることが多い)場合に、広角側に選択肢があるのが助かります。標準ズームレンズの広角端に相当する画角ですが、普通に撮った画質も、もちろん高画質。

f/8 1/200sec ISO-200 18mm

A80スープラのカーボンボンネットとメタリックブルーがシブくて撮った1枚。カーボンの織目をみれば、キットレンズレベルの解像度は超えていることがわかります。これ以上の解像感が欲しいとなるとPROレンズが必要でしょう(M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROあたり)。

まとめ

久しぶりに出たスタンダードグレードレンズ、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3をD1GPの撮影を通してモータースポーツシーンでの使い勝手を探ってみました。

十分に使える高画質

  • 良好な光学設計やレンズコーティング。例えば、画角に入った上空の太陽やフロントウインドウに太陽光が反射してできた光条に、余計なゴーストの発生がない。
  • 十分に優れた解像感。キットレンズや標準ズームレンズのそれよりはしっかりとした解像感を感じられ、これ以上の解像感が欲しいとなるとPROレンズが必要

コンパクトな高倍率ズームの使い勝手

  • 開放F.6.3というのは暗めで屋外での使用が前提のレンズだが、スローシャッターを多用する流し撮りの場合には暗さはそれほどデメリットにならない。むしろコンパクトでレンズを振りやすく流し撮り向き
  • 高倍率ズームなら次々と変わるシチュエーションにもレンズ交換なく対応可能。競技中のマシンに100mm〜200mmの望遠で対応することもできるし、人混みの中で展示車両を撮影する場合には標準ズームレンズの範囲で対応できるなど、シームレスに変えながら撮影できるため、画角や構図で試行錯誤する余裕が得られる。

モータースポーツ撮影では違和感ない性能

  • AFのスピードはPROレンズと同等かちょっと遅いくらい。モータースポーツの撮影では十分なスピードを持っている。
  • レンズ内手ぶれ補正がないが、流し撮りに関しては、手ぶれ補正よりも被写体の動きに追従してレンズを振れるかどうかの方が重要であり、その点では手ぶれ補正がない分コンパクトで軽いのはこのレンズのメリット。

この手の高倍率ズームにありがちな中途半端な画質(解像)やAFスピードなどのネガはしっかり対策されているため不満がありません。一方、暗めであることやレンズ内手ブレ補正がないなどのネガはモータースポーツ流し撮りの特性がカバーしているため、サーキットで常用するメインレンズ(大概は大口径の超望遠)の画角を補完するサブ、場合によってはメインを張れるスーパーサブとして使える一本といえるでしょう。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとどちらを選べばいい?

最後に、このレンズとM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROはよく比較され悩んでいる方も多いと思いますが、モータースポーツ撮影的には、「テレ端200mmを取るか、否か」だけが判断基準と言っていいと思います。

今回のD1のようなお台場の特設会場の場合、撮影ポイントが移動できない点も含めて200mmがちょうどいい焦点距離でした(実際に今回作例には200mmで撮影したものが多く、100mm付近の写真と画角するとこの差が大きいのがわかる)。SUGOなど比較的小さなサーキットでは200mmがメイン、より大きいサーキットも含めてほとんどのシチュエーションで使える焦点距離が200mmです。

メインレンズは大砲で、サブとはしっかりと切り分けて使う場合はM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROがいいでしょうし、メインレンズに万一のトラブルがあってもサブがカバーできるようにと考える場合はM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3でしょう。

私は、この「プラス100mmの余裕」を買っています。サーキットで100mm付近はもはや広角の範囲だったりしますが、100mmから「もうちょっと焦点距離が欲しい」という時にレンズ交換せずに200mmまで手が届くのは、シャッターチャンスを逃すかどうか、の時に効いてくると思います。

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