カメラ 機材

OLYMPUS E-M1X サーキットレビュー(1) 被写体認識AFを使うときの5つのポイント

2020年7月2日

前回オリンパスのカメラ、レンズを中心に、マイクロフォーサーズでモータースポーツ撮影をするための機材構成について紹介しました。

多くのマイクロフォーサーズ、オリンパスのユーザーと同じように、私もE-M1 Mark IIIを買うべきか、E-M1Xにすべきか悩んだ過程ともいえる記事でしたが、今回、一念発起、1年遅れでE-M1Xを購入しました。

発売から1年以上経ったE-M1X、1周遅れのバックマーカーが、E-M1Xと、その独自機能「インテリジェント被写体認識AF」を使ったモータースポーツ撮影での強みを探っていきます。

「マイクロフォーサーズはコンパクト」の概念を越えたバランスのよさ

まずはボディ外観について簡単に。1周遅れでE-M1Xを紹介するので、今更な細かいことは省略し、私の撮影スタイルや使い勝手に影響しそうな部分を紹介します。

オリンパス、あるいはマイクロフォーサーズにおける最重量級の組み合わせとなるE-M1X + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO + MC-14。

サンヨン登場時は、他者のAPS-C向けサンヨンと同じくらいのサイズで、今までのマイクロフォーサーズカメラに対しては大きめに感じられるサイズでした。

結果、E-M1 Mark IIで使用する場合は、バッテリーグリップを着けて前後の重量バランスが合う感じでした。E-M1Xは縦グリップ一体型ということもあり、サンヨンとのバランスは一番いいですね。

カードスロットカバーとバッテリースロットは、金属製のロック機構で開閉。金具は手袋をつけた親指でも扱いやすいサイズで、確実なロックができます(E-M1 Mark IIのスライド式ロックを誤って、縦グリからバッテリーを落としてなくした経験アリ)。

バッテリーはE-M1 Mark II以降のM1系で共通のBLH-1。E-M1 Mark IIで純正バッテリーに投資しておいてよかった。

惜しむらしくは、E-M1Xに付属のBLH-1には樹脂製バッテリーケースはなく、ビニール袋に入っていたこと。大容量のリチウムイオンバッテリーだけに、外傷から守るケースは付属して欲しかったところ。

E-M1Xとそれ以外のE-M1系ボディの最大の違いは、縦位置でマルチセレクター(ジョイスティック)が使えること。フォーサーズフォーマットが、35mmフィルムのハーフサイズに由来していることを考えると、縦位置の使い勝手がいいのは、本来は重要なことなのかもしれません。

マルチセレクターのレイアウトの影響を受けて大きく場所が変わったMENUボタンは左下にあります。他のE-M1系カメラに慣れた手には、たしかに違和感がありますね。

特にサンヨンなどの重量のあるレンズを着けていると左手はレンズの重量を支えたいので、咄嗟にも左手が出ないんですよね。ここは使い慣れていくしかないところ。

インテリジェント被写体認識AFを使ったモータースポーツ撮影

E-M1Xだけが使用できる唯一の機能が「インテリジェント被写体認識AF」です。今回は、この新機能がモータースポーツ撮影の使い勝手にどれくらい効果、影響があるかを主な目的としてレビューしていきます。

インテリジェント被写体認識AFについて

ディープラーニング技術を活用して開発されたアルゴリズムによって特定の被写体を自動で検出し、最適なポイントにフォーカス・追尾するAFシステムがインテリジェント被写体認識AFです。E-M1Xのみに搭載されている2基のTruePic VIIIによってリアルタイム処理されています。

使用するには、AFモードをC-AF+TRにし、カスタムメニュー「A3.AF/MF」から「追尾被写体設定」を呼び出し「モータースポーツ」を選択すれば、設定完了。

ターゲットモードはどのモードにしていても、オールターゲットモード相当の振る舞いをします。

具体的な被写体認識の動きはオリンパスの公式動画が参考になります。

  1. 被写体認識が設定されていると、画面上の認識した被写体に白い枠が表示されます。白い枠(認識できる被写体)の数は最大8個までです。
  2. C-AFをスタートさせると、この白い枠が緑色に変わり、ピピッと合焦音と同時にC-AF+TRの追尾がはじまります。
  3. さらに追尾が続くと、緑色の枠が認識した被写体の特徴点に絞り込まれ、通常のC-AF+TRのターゲット枠と同じサイズになり、以降は通常のC-AF+TRと同じ挙動になります。


ここでいう特徴点とは、一般的に「ここにピントがあっているとキレイに撮れているように見える」部分のことを指しています。
モータースポーツ認識モードの場合、いわゆるハコ車だとフロントグリルフォーミュラカーやバイクだとヘルメットが検出されるアルゴリズムになっていますが、たしかにピントや流し撮りの芯を合わせるといいとされる部分ですね。

追尾開始から特徴点へのターゲット絞り込みまで、0.5~1秒弱かかるので、狙いの構図が整う前から被写体認識させはじめるのがコツになります。

また、この被写体認識の白い枠は、ターゲット絞り込みの途中で画面から外れると外れてしまいます。

被写体とロケーション

E-M1Xを購入したのは、今年2020年の2月末。日本でも新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されはじめる直前の3月中までは、ツインリンクもてぎは参加者への感染注意を呼びかけながらのシーズン開幕となっていました。

バイクレースに関しては3/22のもてぎロードレース選手権第1戦からスタート。今回はここにE-M1Xを持ち込んだ時の記録です。

バイクは4輪よりも小さくて狙いにくく、ライダーのヘルメットにピントを合わせるというのは難しいですね。ここはインテリジェント被写体認識AFのテストにはもってこいのカテゴリー。

もてぎロードレース選手権は、参加車両のラインナップも豊富でスピードレンジも様々なので、テストには向いているといえます。

撮影条件

今回撮影した条件は次のとおり

ファームウェア:Ver.1.1

撮影モード:シャッタースピード優先、単写、または、連写L(10fps)
露出補正:0EV
ISO:L64
AFモード:C-AF+TR
AFターゲットモード:5点グループターゲット、または、オールターゲット
AF追従感度:0
C-AF中央スタート:有効
手ブレ補正:IS-AUTO、または、OFF
LVブースト:On1
EVFフレームレート:高速
※その他の設定はOFFまたは標準としRAW撮影

画像は以下の条件でRAW現像してJPEG画像で評価しました。

下記以外のその他の編集パラメータは設定していません。
Olympus Workspace(バージョン:1.3.1)
アートフィルター:なし
露出補正:0〜+0.5EV
ホワイトバランス:オート(撮影時設定のまま)
仕上がり:Natural
ハイライト&シャドウコントロール:OFF
階調:標準
コントラスト:0〜0.6で適宜微調整
シャープネス:0〜0.6で適宜微調整
彩度:0
収差補正:色収差R/C、B/Yともに0
ノイズフィルタ:OFF
カラー設定:sRGB
E-M1 Mark IIの設定をベースに、被写体への追従動作を撮りやすい設定とし、画像に関してはピントの確認がしやすい味付けとしています。

使用レンズ

今回E-M1Xに合わせるレンズは、マイクロフォーサーズ純正レンズにくわえて、フォーサーズレンズをマウントアダプター経由で使用した撮影も行いました。

使ってわかった被写体認識AF 5つのポイント

実際に被写体認識AFを使って撮影した写真をご覧ください。写真はトリミングなしの元データを1440×1080ピクセルに縮小したものと、AF確認のために適宜元データから等倍で切り出した画像を表示しています。

1.被写体認識AFに任せてレンズを正確に振ることに集中する

f/22 1/60sec ISO-64 300mm M.ZD300mmF4.0

S字に入ってきたところから画角にライダーを捉えると、即座にライダーを認識して大きな枠が表示されます。レリーズボタン半押しから0.5秒程度で大きな枠はヘルメットを中心とした小さな枠に縮んでいきます。

あとはC-AF+TRに任せて、被写体の動きにレンズの振りを合わせることだけに集中し、タイミングをみてレリーズします。

うっかり設定を間違えて、いきなり1/60sから撮影しましたが…

f/22 1/60sec ISO-64 300mm

こちらは等倍で切り出した画像です。少々手ぶれが残っていますが、シーズン1発目の流し撮りを比較的スローシャッターではじめたわりにはまぁまぁ。

肝心のAFですが、ヘルメット側頭部の繊細なカラーリングが見てとれるあたり、ちゃんと追従できているようです。

f/13 1/125sec ISO-64 300mm M.ZD300mmF4.0

これはオリンパスのボディ&レンズ共通のことですが、コーナーのエイペックス付近を旋回するマシンを撮るときは、レンズを振る角度(角速度)が浅く、手ぶれ補正が、流し撮りを手ぶれと誤検知して補正してしまいます

結果、背景が止まって被写体がブレるということに。この動作はE-M1Xでも同様で(むしろ手ぶれ補正性能がシリーズでもっとも高いので影響も大きい)、シーンや条件によって手ぶれ補正をOFFにする必要があります。

2.フォーカスリミッターなしでも障害物の影響なし

f/13 1/125sec ISO-64 300mm M.ZD300mmF4.0

f/13 1/125sec ISO-64 300mm

一眼レフだとAFが難しい、画面隅よりに被写体を配置した場合でもAFが使えるのが撮像面位相差AFの便利なところ。もちろん、被写体認識も画面全体に対応しています。

絶対的な画素数がフルサイズよりも少ないことから、トリミング耐性が低いと指摘されるマイクロフォーサーズですが、気がつけば5184×3888ピクセルの解像度まで進化しています。

これにサンヨンのような高解像なPROレンズを組み合わせれば、WebやSNSにアップするレベルの解像度なら十分トリミングが効く素材となるレベルです。

f/13 1/125sec ISO-64 300mm M.ZD300mmF4.0

今回、被写体認識AFを使って気づいたのが、あらかじめ被写体認識できた対象との間に障害物が入っても、認識が止まったりしないこと。

上の写真のような状況はサーキットではよくありますが、E-M1 Mark II以降ではフォーカスリミッターで手前にフォーカスしないように設定したり、C-AFの追従感度を鈍くして障害物にAFを持って行かれないようにするのがセオリーです。

これに対してE-M1Xでは、ヘルメットさえ見えれば、被写体認識を使うことで見失うことなく撮影できます(特にスローシャッターで前景を流したいときに有効)。

3.複数のマシンが画角に入った時の被写体認識の挙動

f/9.5 1/250sec ISO-64 283mm ZD50-200mmF2.8-3.5SWD+EC-14

f/9.5 1/250sec ISO-64 283mm

複数のマシン/ライダーが画角に入ってくる場合、その全てを認識して四角い枠が表示されます。

そこからレリーズボタン半押しでフォーカス動作に入る時、画角内で先頭を走行している被写体にフォーカスを合わせる確率が高いように感じます。

これは画面左右方向、上下方向、被写界深度方向のいずれの場合でも同じように感じられます。

上の写真の場合、ヘアピン侵入前の時点で24号車を画角の先頭に認識させ、ヘルメットに認識枠が縮まったところでC-AFを開始しています。

撮りたい被写体に合わせてうまく認識させるように、クセを理解する必要はありそうです。

f/8 1/250sec ISO-64 283mm ZD50-200mmF2.8-3.5SWD+EC-14

例えば、複数の被写体が団子状にコーナーへやったきた場合、被写体認識もメインの被写体を決めかねるようで、この状態からAFを初めてもどれにもフォーカスできないままレリーズされることがあります。

大げさな表現をすれば、撮影者が被写体選びを迷ったままコーナー進入がはじまれば、その迷いはそのままカメラの被写体認識に影響するという感覚です。

被写体認識は、あくまで「C-AF+TRのためのAFターゲットをどこにするか」を自動化する機能であって、AF自体は今までのC-AF+TRです。そのため、被写体認識自体はできるだけ早く行った方が、いい結果につながるように思われます。

4.ヘルメットが隠れる場合は被写体全体を認識したままになる

f/13 1/125sec ISO-64 200mm M.ZD12-200mmF3.5-5.6

f/13 1/125sec ISO-64 200mm

被写体認識は、バイクやフォーミュラーカーの場合、マシン全体を認識した後にヘルメットに認識範囲が絞られます。

被写体の角度によって認識範囲の挙動も変化があり、一番確実にヘルメットを認識してくれるのは正面、その次が横方向です。

例えば、上の写真はコーナーのエイペックスで正面からヘルメットを認識したときにAFをスタートし(認識したヘルメットにAFターゲットがセットされ、そこからC-AF+TRで追従)、コーナー立ち上がり直後にシャッターを切っているため、ライダーのヘルメットにフォーカスできています。

f/9.5 1/250sec ISO-64 420mm M.ZD300mmF3.0+MC-14

f/9.5 1/250sec ISO-64 420mm

一方で、ライダーの顔(バイザー)がほぼ見えないところからでは、ライダーとマシン全体を認識したままで、そこからAFをはじめると被写体認識した枠の中心に最も近いAFターゲットが選択されます。

その場合、マイクロフォーサーズの被写界深度の深さに助けられ、被写体全体に対して「そこそこに」ピントがあっている写真になります。

5.縦持ち、斜め構図でも被写体認識は有効

f/19 1/60sec ISO-64 420mm M.ZD300mmF3.0+MC-14

f/16 1/60sec ISO-64 420mm M.ZD300mmF3.0+MC-14

縦グリップ一体構造のE-M1Xだけに、縦に構えてももちろん被写体認識してくれます。そして、斜めに構えても変化なく、しっかり認識してくれます。

認識した後は従来と同じアルゴリズムのC-AF+TRで、今まで使っていたE-M1 Mark IIと同じ感覚で撮影できました。

E-M1X:オリンパス史上最高傑作か?歴史の徒花か?

今回、2月に買ったカメラで、3月に初撮影したインプレッションを7月になって記事としてお伝えするという無茶をいたしました…(汗)

サボり癖もほどほどにすべきですが、屋外で撮影した写真を新型コロナで外出自粛要請が出ていた4月、5月に出すのは憚られましたし、外出できない状態で記事を読んでもらっても、何も役に立たないだろうということもあり、半年遅れ(機種自体でいえば1年以上遅れ)での紹介となりました。

思えば2月12日にE-M1 Mark IIIが発表されてから、モヤモヤした思いでオリンパスのマイクロフォーサーズ機のラインアップをふりかえる中で、被写体認識AFは現在のオリンパスではE-M1Xだけしかのらない(のせられない)という確信を持ったので購入しました。

どれもいいカメラばかり(この撮影もE-M1)

それが、オリンパスが映像事業を譲渡するという事態になって、悪い意味でこの確信が事実となったのは残念でしかたありませんが、運命的なものも感じています。

事業譲渡のニュースにあって、「オリンパスはE-M1Xなどという儲からないカメラを作った」という論調の意見も聞きます。

しかし、オリンパスの技術者が「自分たちがやりたいことを全てやりきった」というE-M1Xは、10年以上続いたオリンパスのマイクロフォーサーズカメラの最高峰なのは間違いありません(逆にE-M1 Mark IIIの方がやりきれない感を受ける)。

オリンパスの技術者は、センサーの更新がままならなくなってきた一昨年の時点でこうなることを感じ取っていて、E-M1Xに全精力を注いだのかもしれないな、とすら思えてきます。

おそらく、この記事をご覧になってからE-M1Xを買おうという方はいないと思いますが、「レース撮るのに便利そうだから買っちゃった…」という方の参考になれば幸いです。

-カメラ, 機材
-, , , , ,