モータースポーツを撮影するためにはどういったレンズを用意するのがいいのでしょうか?
サーキット撮影に慣れた人たちに質問すれば、経験的に焦点距離300mm以上の望遠レンズをオススメしてくれると思います。
ですが、実際には撮影スポットや被写体、撮りたい画(構図)によって様々な可能性が考えられるので悩ましいところです。
今回は、モータースポーツ撮影で大事なレンズ選びについて、具体的な撮影シーンを想定しながら、簡単な計算式を使って考えてみましょう。
Topics
サーキットで望遠レンズを使う意味
焦点距離と望遠レンズ
サーキットのスタンドやコースサイドを見ると、白くて大きなレンズを担いだカメラマンを見かけると思います。彼らが担いでいるレンズは、300mm F2.8(通称サンニッパ)や400mm F2.8(同じくヨンニッパ)、500mm F4.0(ゴーヨン)などの仕様の高級望遠レンズです。
レンズ名の前半にある数字○○○mmというのが、焦点距離です。焦点距離が100mmを超えるようなレンズを望遠レンズと呼び、焦点距離が長いほど、遠くを撮影できると考えればよいでしょう。
レンズの焦点距離と被写体までの距離で撮れるサイズが計算できる
焦点距離についてもう少し丁寧に考えてみましょう。上の図のように被写体にカメラを向けると、レンズを隔てて被写体とカメラの撮像センサーが向き合う状態になります。被写体の姿はレンズのある一点で像を結び、撮像センサーには上下左右が反転した姿で写ります。
「レンズのある一点」というのが焦点で、要するに「ピント」です。実は、焦点距離というのは焦点からセンサーまでの長さをいう用語なのです。
レンズの焦点距離とカメラのセンサーサイズ、そして被写体までの距離がわかると、上の図の計算式のように撮影できる範囲が計算できます。カメラのファインダーに映る範囲ですね。
例えば、マイクロフォーサーズのカメラ(センサーサイズ:横17.3mm×縦13mm)に焦点距離25mmのレンズを着けて、10m先を撮影すると、横6.92m×縦5.2mの範囲を撮影できます。普通乗用車の全長がだいたい5〜6mですから、乗用車を真横から撮影するとちょうど画面に収まるくらいですね。
逆に、撮影したい被写体のサイズ(画面にどの程度の大きさで写したいか)と被写体までのおおよその距離が分かれば、必要なレンズが焦点距離から計算できることになります。カシオが運営する計算サイトでは、この計算をしてくれるものがあります。
同じレンズでも撮影する場所で撮れるサイズは変わる
この計算式の考え方を応用して、サーキットで撮れる写真を考えてみましょう。
画面にどの程度の大きさで被写体を写したいかでレンズの焦点距離を決めることができるわけですが、現実には、いろいろな焦点距離のレンズをいくつも買ってサーキットに持ち込むというのは、経済的にも持ち運びにも難しいですよね。なので、その時点で買うことができる一番焦点距離の長いレンズを持ち込むことになります(あるいは、望遠ズームレンズ)。
上の写真は、ツインリンクもてぎのS字コーナーに入ったSuperFormulaマシンをS字の外側から撮影したものです。
焦点距離は420mmで、撮影しているスタンドからは180mほど。この場合、画面に幅5.57mまでおさまります。SF14の全幅は1900mmと言われているので、おおよそ画面横幅の1/3を占めていることがわかりますね。
今度は場所をヘアピンに写して同じ被写体を同じレンズで撮影してみました。
ヘアピンのクリッピングポイントに差し掛かるあたりを向かい合うようにスタンドから撮っています。距離は70mくらいになりますから、画面横方向には2.16mまで入ります。全幅1900mmのSF14を画面いっぱいに写せていることが数字からもわかりますね。
こちらはS字出口〜V字コーナーへアプローチする短いストレートです。スタンドからは60m程度あります。計算上は、画面対角に3m程度入るはずですが、SF14の全長5268mmに対してフロントノーズからコックピット後ろのインダクションポッドまでが入りました。
モータースポーツの場合、おおよそのレコードラインがあり、そこからスタンドまでの距離はGoogleMapを使えばざっくりとした距離がわかります。これを応用すれば、初めてのサーキットでも(おおよその撮りたい構図がイメージできていれば)持ち込むレンズを選ぶことができます。
同じレンズでもセンサーサイズによって撮れるサイズは変わる
ところで、この計算式にはもう一つ、撮像センサーのサイズが大事なパラメータになっていますね。センサーのサイズが大きければ(小さければ)、撮影できる範囲が広く(狭く)なります。
例えば上の写真。S字2個目を立ち上がるSF14ですが、画面の上下左右のほぼ真ん中に1/3〜1/4程度の面積を占めています。これをフルサイズセンサー(縦24mm×横36mm)で撮影したと考えてください。
同じ位置から同じマシンを今度はAPS-Cサイズセンサー(縦16.7mm×横23.4mm)で撮影した場合は、撮影範囲がフルサイズの2/3程度になるので、マシンが占める面積が1.5倍程度大きくなっていることがわかります。
マイクロフォーサーズ(縦13mm×横17.3mm)の場合は、さらに撮影範囲が狭くなるので、その分マシンは大きく写ることになります。
このように、同じ焦点距離のレンズを使って撮影する場合、マイクロフォーサーズはフルサイズよりも倍程度大きく撮影することができます。逆に言うと、同じ構図で撮影するためにマイクロフォーサーズはフルサイズの半分程度の焦点距離のレンズを選べばよく、小さくて安い望遠レンズを選ぶことができます。
レンズやカメラのカタログなどで、焦点距離について「35mmフィルム換算○○mm相当」といった表記は、「フルサイズセンサーのカメラ(または35mmフィルムのカメラ)で焦点距離○○mmのレンズを使ったときと同じ程度の範囲を撮影できる焦点距離」ということです。
同じ場所、レンズでも被写体のカテゴリーが違うとサイズ感が変わる
モータースポーツのカテゴリーはいろいろなものがあります。カテゴリーが異なるとマシンの大きさや見た目は違ってくるので、同じ場所から同じレンズで撮影しても、画面に占める割合が変わるので、雰囲気が変わります。そのため、カテゴリによってレンズを変えることも考えられます。
ツインリンクもてぎの130Rを抜けてS字に飛び込んでくるSF。フォーミュラカーは、横幅があるものの高さは低いため、画面上下方向に余裕ができがち。縦向けの構図などでは複数のマシンを一画面におさめてレースの緊迫感を演出できます。
同じ場所を走行するセーフティカー。フォーミュラーに対するハコ車として考えてください。高さがあるため、同じ場所、焦点距離でも大きく見えます。
こちらはS字を立ち上がるSF14。もともとSF14はフォーミュラカーの中でも大きめなので、縦構図で撮影するとほぼ画面いっぱいにおさまります。
同じ場所でも、バイク(JSB1000)となると相当に小さくなります。SFのドライバーのヘルメットと比べれば、ほぼ同じスケールなのはわかりますが、カテゴリが変わると画面での印象が変わりますね。この場所からバイクを撮りたいなら、さらに焦点距離の長いレンズが欲しくなるか、トリミングして画面に占める割合を変えることになります。
モータースポーツ撮影用としてのマイクロフォーサーズレンズ
焦点距離を稼げるフォーサーズセンサー
マイクロフォーサーズに使われているフォーサーズセンサーはフルサイズセンサーの半分程度のサイズです(面積としては1/4)。さきほども書いたように、画面上に被写体を同じ大きさ、同じ構図で撮影するためにマイクロフォーサーズはフルサイズの半分の焦点距離のレンズでよくなります。
サーキットは、ドライバーやオフィシャルとチーム関係者、それを観戦する観客すべての当事者の安全管理のため、コースからガードレールやタイヤバリヤまでのランオフエリア、さらにそこから観戦エリアまでの距離がとても長く、その距離はレーシングスピードの高速化に合わせてどんどん離れていきます。
モータースポーツ撮影では、被写体であるマシンとの距離を詰めるには、レンズの焦点距離を長いものにするのが唯一の手段ですから、この点においては、マイクロフォーサーズのようなカメラにアドバンテージがあります。
コンパクトな望遠レンズなら周りの邪魔になりにくい
例えば、オリンパスのM.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm F4.8-6.7 Ⅱは、望遠側の焦点距離は300mm。フルサイズに換算すると600mmの超望遠レンズです。先ほど紹介した写真が焦点距離420mmですが、似た大きさで撮影することができるレベル。
このレンズの最大径×全長 φ69mmx116.5mm。
一方、フルサイズセンサーのカメラで同じ大きさで撮影するためには焦点距離600mmが必要ですね。シグマの最新望遠レンズ60-600mm F4.5-6.3 DG OS HSMのスペックを確認してみると、
このレンズの最大径×全長 φ120.4mm×268.9mm。
倍近い大きさの違いであることがわかります(厳密には、レンズの明るさや手ぶれ補正機能の有無が大きさに影響するので、オリンパスを贔屓目にみています)。
レンズの大きさが持ち運びや取り扱いのし易さに関係していることはもちろんですが、これがF-1の撮影の場合は撮影の可否そのものに関係する場合があります。
鈴鹿サーキットのF-1日本GPのサイトに掲載されている、観戦マナーに関するページには、カメラ撮影におけるレンズの制約が記載されています。
- ■持ち込みや使用に注意が必要なものについて
4.全長26cm(レンズ、レンズフード、カメラ本体など全て含む)を超えるカメラ、ビデオカメラなどは、カメラマンエリアを除き全ての観客席、エリア席での使用は禁止。
ズームすると26cmを超える場合は、ズームせずにご使用ください。
※金曜日のみV1、V2以外の自由席エリアでは他のお客様の迷惑にならない範囲で使用可能ですが、状況によりスタッフから指示させていただくケースがございます。
※ご利用可能なエリア内でも周囲の環境を十分にご確認のうえ、ご使用ください。
全長26cm以内のカメラであったとしても周囲の方の迷惑にならないようにご配慮願います。
全長26cmというのが何を基準として決められたかは明らかではありませんし、会場でものさしを持った係員が巡回しているというこもありませんのであくまで目安と考えれますが、ほとんどの大型レンズを着けた一眼レフカメラはNGということになりますが、マイクロフォーサーズであれば、カメラマンエリア以外の席でも撮影できるカメラと望遠レンズがあります(マイクロフォーサーズであってもフードを着けた場合に26cmを超える可能性があります)。
もっとも、上記引用文末にあるように問題なのはカメラレンズを振り回して他の観客の迷惑になることであり、その点ではどんなカメラを使っていようが厳に慎まなければなりませんね。
一本で色々な構図を選べるズームレンズ
コンパクトなマイクロフォーサーズのアドバンテージをさらに活かすために、望遠ズームレンズの活用をオススメします。冒頭紹介した計算式などを使って必要な望遠側の焦点距離がわかったら、それを基準にズームレンズを選んでみてください。ズームレンズの広角側(焦点距離の短い側)も活用することでいろいろな構図での撮影を楽しめます。
ズームレンズならレンズ交換することなくレースを追えるのでシャッターチャンスを逃さない
例えば、オリンパスの最新ズームレンズM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3だと、広角側12mmから望遠側200mmとなります。通常なら広角側は標準レンズや広角レンズで、望遠側は望遠レンズで撮影するために都度レンズ交換が必要になりますがこれ1本で撮影できます。
今回は手持ちのレンズを交換しながら、同じ範囲を撮影してみました。
広角側12mm(フルサイズ換算24mm)
一般的な一眼カメラをレンズ付きのキットで購入すると、おそらく、この辺り(フルサイズ換算24〜28mm)の焦点距離を広角側にもつ標準ズームレンズが付いてきますね。スマホカメラなどもこの程度の広角を撮影できるので、見慣れた構図かもしれません。マシンは小さく写ってしまいますが、サーキットの一部や当日の空模様などを写して、レースの雰囲気を撮影できます。
標準25mm(フルサイズ換算50mm)
フルサイズ換算50mmの焦点距離は、人間の視野感覚に近いといわれており(要するに普段の見た目に近い)、そこから標準的な焦点距離と言われています。広角レンズほどの広がりはないものの、サーキットとマシンの配置、構図などに自由度がありますね。サーキットでは、広角から50mm程度までは背景に建物やフェンス、観客席などゴチャゴチャする要素が多いので構図に工夫するか、スローシャッターで流してしまうのがいいかもしれません。
望遠60mm(フルサイズ換算120mm)
フルサイズ換算で100mmを超える焦点距離を望遠と呼ぶ場合が多いです。被写体が大きく写りはじめる一方、背景はコースやランオフエリアだけになる場合が多いので、撮影する主体とそれ以外を構図など工夫して整理しやすくなります。
望遠150mm(フルサイズ換算300mm)
モータースポーツ撮影を始めようとする人に対して、多くの先輩方が最初にオススメする望遠レンズの焦点距離が300mmだと思います。おおよそ国内のサーキットなら300mmで足りる場合が多いですね。作例はスタンドから100m程度と比較的近めですが、被写体がN-ONEとコンパクトな軽自動車ということもあり、複数台が争う様子を撮影することができました。
望遠200mm(フルサイズ換算400mm)
フルサイズ換算400mmまでになると、1台の被写体に寄って、そのディテールまで撮影することができるようになってきます。また、背景が限られてくるため、無理に低速シャッターで流し撮りせずに高速シャッターでも迫力ある写真が撮れます。ただし、画面に入る被写体の数が少なくなるので、構図には注意が必要(上の作例ではちょっと物足りないでしょ?)。
モータースポーツ撮影におススメするズームレンズ
バリエーション豊富なマイクロフォーサーズのズームレンズ
このように、モータースポーツ撮影にはマイクロフォーサーズ&望遠ズームレンズの組み合わせが相性がいいのですが、さらに嬉しいことに望遠ズームレンズが結構な数出ています。価格帯別にオススメをご覧ください。
エントリークラス(〜10万円未満)
コンパクトで手持ちできる焦点距離300mmの超望遠レンズが、オリンパスとパナソニックから出ています。
パナのG100-300mmは私が最初に買ったマイクロフォーサーズ専用レンズです。望遠側の解像感がやや甘いとのレビューもありますが、甘いというよりはエッジが立ちすぎない柔らかい描写。AFの追従性もよく、モータースポーツ撮影にも使いやすいレンズです。
広角14mmから望遠150mmをカバーする10倍ズーム。基本的には旅行などにこれ1本でOKというふれ込みの便利ズームですが、同じ焦点距離をカバーするオリンパスやパナソニックの高倍率ズームよりもさらに一回りコンパクトで十分な写りが楽しめます。
モータースポーツ撮影では、フルサイズ換算300mmをカバーするのでサーキットでも使いやすいですね。広角側はピットウォークやレースクイーンのおねえさん達を撮影するのにも便利。
ミドルクラス(〜20万円未満)
モータースポーツに限らず、マイクロフォーサーズを使うならぜひ持っておきたい1本。
望遠側はフルサイズ換算300mmで、専用のテレコンバータMC-14を追加すれば、フルサイズ換算420mmまで伸びるのでサーキットのマシンにも十分寄れます。AFも高速で、このサイズでF2.8と明るいのも魅力。
ハイエンドクラス(20万円以上)
マイクロフォーサーズで現在もっとも高価格帯の望遠ズームレンズ。オリンパスのボディとはやや相性が悪い(AFが遅いと評価される場合がある)ものの、パナボデイならこれが一番。先述したG100-300mmと比較して、そのサイズ・重量と引き換えに高画質を得ることができます。
まとめ
モータースポーツ撮影に必要な望遠レンズ選びを、レンズの焦点距離の観点から、簡単な計算式による理論と具体的な例で考えてみました。多くの先輩達がオススメする焦点距離300mmは皆さんが撮りたいイメージにマッチしたチョイスになりそうでしょうか?
また、マイクロフォーサーズの場合は焦点距離を稼げる点でモータースポーツ撮影に向いていることも説明してみました。特に望遠ズームレンズはバリエーションが豊富で、予算毎にいろいろな選択肢がありますから、いろいろ試してみるのがいいかもしれませんね。