前回は、テレコンバータを使ったマイクロフォーサーズの焦点距離600mmの撮影から、モータースポーツ撮影に適したレンズの焦点距離について考えてみました。
そこでの結論は、ほとんどのサーキットではマイクロフォーサーズで400mm(フルサイズ換算800mm)まであれば十分というものでした。
その焦点距離400mmをカバーする新しい望遠レンズ、オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3が発売されました。早速、購入しましたので、開封の儀として外観のチェックや扱いやすさなどについてレポートします。
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開封、外観チェック
主なスペック等は、公式サイトをご覧いただくとして、外観や付属品などについてレポートしていきます。
製品の構成はSTDレンズらしくシンプル
まずは同梱品からチェックします。
外箱はここ最近のオリンパスのSTDレンズのシンプルでひと目で焦点距離が分かるもの。以前のような35mm換算焦点距離を書くような不粋なことはありませんね。箱の下の方に小さく200−800mmと表記がありました…
保証書と説明書もおなじみのフォーマット。外箱ともども、これがオリンパス銘の入ったSTDレンズとしては最後のものになるだけに感慨深いですね…
レンズの他に、前後キャップとフードLH-76D、三脚座が付きます。手持ち撮影時に三脚座の代わりに取り付けるデコレーションリングは付属せず、別売(DR-79)になっていて、STDレンズらしいコスト意識が感じられる構成。
OM-Dシリーズによく似合う
E-M1Xにマウントした場合は、見た目にバランスがとれています。M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROのときとそれほど印象は変わりません。(レンズ下はMC-14で支えています)
テレ端400mmまでズームした状態。公式や大手メディアだとズームを伸ばした状態の写真が出てなかったので、どれくらい伸びるのか気になってましたが、それほど伸びずに400mmに達します。
ズーム部分はガタつきなく、剛性感があります。フォーサーズのZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDなんかの古い望遠ズームは防塵防滴でも結構ガタつくので、製造精度が向上したということでしょう。
他のレンズとの比較、コンビネーション
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3とコスパベストなコンビネーション
1番最近に発売されたSTDレンズ、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3と並べてみました。
ズームリング、ピントリングの意匠や、ブラックの表面処理、鏡胴先端のダーククロムのリングなど、エンジニアリングプラスチック製ながらも高精度、高級感のある統一されたデザインがカッコいいです。
焦点距離としても12-200mmの特殊性も手伝って、100-200mmレンジをクロスオーバーしながら12-400mmというレンジをこの2本で無理なくカバーできる点がすばらしく、オリンパスのレンズの中でもコスパベストな組み合わせです。
レンズの周方向のガタつきについて
発売してすぐに、価格.コムのクチコミ掲示板で話題になったのが、レンズマウントのガタつき。
ボディにマウントした状態で、レンズを持って周方向に動かすと、ガタつきを感じる(体感で〜0.5mm程度動く)というものです。
マイクロフォーサーズ規格は、レンズのマウントが時計方向に回すとフランジ同士が締結するバヨネット構造ですが、締結位置で、ボディからレンズにピンが出て、逆方向に回る(緩む)のをロックします。
ガタつきの原因は、レンズ側のロックピンを受ける穴が、ロックピンに対して若干大きいため、その余裕分だけ周方向にわずかに動くことのようです。
100-400mmのロックピン受けの穴と12−200mmのものとを比較するとこんな感じ。今までのオリンパスのマイクロフォーサーズレンズは、12−200mmの写真にあるように、楕円の穴加工1回(フライス盤によるエンドミル加工1発とみられる)でしたが、100−400mmは、ドリルによる下穴加工の後にー型の溝が入ったピンを打ち込んでいるように見えます。
必ずしも、どちらの方法が安くてどちらの方法が精度がいいかは言い切れない部分で、加工方法が変わったからダメ、というよりも、溝の幅が(設計上許される範囲内で)少し広いものを作った、と考えるのが妥当でしょう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5-6.3、マウントが周方向に緩いという指摘がありますが、ボディ側から出るピンを受ける溝穴の幅が従来より広めなのが原因かと思われます。無理にガチャガチャやるとピンを折る可能性もあるので、やりすぎに注意。
レンズが外れたり、マウントに隙間ができる事はないです https://t.co/tzVdRqFco6— 43RacePhotos (@43racephotos) September 13, 2020
何回か自分の100-400mmをガチャガチャやってみて、「なんか懐かしいかんじがする…」って思ってフォーサーズレンズ出してみたら、ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDが同じくらいに動いたw
ロックピン穴はこんなかんじ。
使い込んで傷だらけだけど、穴幅は変化してるようには見えない。 pic.twitter.com/lfs2rdJ64L— 43RacePhotos (@43racephotos) September 13, 2020
手持ちの他のレンズを見ると、100-400mmよりはタイトに見え、実際ガタつきは感じません。
ただし、フォーサーズレンズをマウントアダプターを介して使う場合、レンズとアダプター間に100-400mmと同等程度のガタを感じます。
フォーサーズ時代は、当時の加工技術から多少のガタつきが出ざるをえなかった(それでも防塵防滴に影響しない設計をした)のだと考えると、マイクロフォーサーズ化に際して加工技術のレベルが上がって余裕があったところを、コスト的な観点でフォーサーズ並に戻したと考えることはできそうです。
他マウントからマイクロフォーサーズに移ってきたユーザーの中にはガッカリしてる人も多いようですが、防塵防滴性能には影響がないので、さほど気にすることではなさそうです。
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROとはほぼ同サイズ
オリンパスのマイクロフォーサーズレンズとしては、2020年9月時点では焦点距離と価格で最大となっている、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROと並べるとこんなかんじです。
他社製APS-Cフォーマット用のサンヨンと同じくらいのサイズのオリンパスのサンヨンは、マイクロフォーサーズ用としては大きめだと言われることもありますが、100−400mmとはズーム部分の長さの違いはあるものの、サイズはほぼ同じ。
金属製鏡胴のサンヨンと持ち比べてみると、バランス含めあまりどちらが重いというかんじはないです。スペックとしてはサンヨンの方が重い(1475g)ものの、レンズの数が多い点、プラスチックでもある程度の強度を保つためには重くなりがちな点で、100−400mmもそれなりの重量(1325g)になっています。
焦点距離300mmで比べると、100−400mmはサンヨンより1段暗い程度なので、フィルター径も72mmと77mmでさほど変わりません。
フィルター径72mmは、先ほど紹介したM.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3や、こちらも100−400mmとコンビネーションが期待できる、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROと同じなので、流し撮りでスローシャッターとなる場合には、1種類のNDフィルタを持っていくだけで済むのが便利ですね。
三脚座を活用した扱いやすさ
サンヨンとのサイズや重量の違いはそれほどないので、E-M1Xとのバランスは見た目にも実際の撮影時もいいです。
プラスチック製とはいうものの、三脚座取り付け部からレンズマウントまでは金属製で、E-M1Xのような重量でもレンズマウント付近が負けてしまうことはありません。また、この複合材のおかげでレンズ単体の重心がほぼズームリングの下(ワイ端だとマウント寄り、テレ端でも前玉寄り)にあり、扱いやすいです。
三脚座はM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROのものと同一。メーカー純正品としては、オリンパスのサンヨンが業界で初めてアルカスイス互換のクランプ溝を付けた三脚座を採用しました。
アルカスイス互換のメリットは、多種多様な雲台やクイックリリースプレートやクランプを安く手に入れることができることでしょう。写真のクランプは、たまたまAmazonのタイムセールで見つけた格安品。安くても機構が単純なので壊れにくく、壊れてもすぐに買い直せるのが魅力です。
モータースポーツ撮影だと、一脚を使う場合がほとんどです。一脚の場合は、三脚座を直接一脚にねじ込んで固定する人も多いですが、私の場合はねじ込みが緩むのを嫌って、アルカスイス互換のクランプを入れています。クイックリリースプレートがいらないので、見た目をシンプルに構成できています。
ご覧のように、三脚座の溝とクランプの形状とは完全に一致していないので(そこが互換)、クランプの掛かりが浅めですが、それでもクランプはしっかりできているのがアルカスイス互換のいいところだと思います。
アルカスイス互換のクイックリリースシステムは、くの字に掘られた溝をサイドからクランプする機構ですが、前後方向への抜けるのを防止するために1/4サイズのボルトを三脚座に2本つけるのですが、この三脚座にはネジ穴の空きが1本分しかないため、前なり後ろなりどちらか1方向への脱落は防げないのが難点です。
決してチープなSTDではなく、扱いやすさと剛性感のあるコスパが期待できるレンズ
オリンパスのM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3の外観と扱いやすさをチェックしました。このレンズの良いところ、期待するところをあげると、
- エンジニアリングプラスチック製の鏡胴ながら、ズーム部分はガタつきなく、剛性感がある
- 三脚座取り付け部からレンズマウントまでは金属製で、カメラの重量にレンズマウント付近が負けてしまうことはない
- 重心がほぼズームリングの下(ワイ端だとマウント寄り、テレ端でも前玉寄り)にあり、扱いやすい
- M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROと同じ、アルカスイス互換のクランプ溝を付けた三脚座
- M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3と組み合わせれば12-400mmのレンジをカバーするコスパのいいシステムが期待できる
- M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3や、こM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROと同じフィルター径72mmなので、NDフィルタなど共用できるのが便利
といった感じで、STDレンズだからといってチープなことはなく、重量バランスや他のレンズとのコンビネーションといった扱いやすさにおいてメリットが期待できるレンズだと言えます。
強いて心配なところをあげるとすると、
- STDレンズらしいシンプルな構成(付属品は最低限)
- レンズマウントに周方向のガタつきがある(マウントロックピンを受ける溝幅が少し広い程度であり、防塵防滴には影響しない)
- アルカスイス互換の三脚座には、脱落防止用ネジ穴の空きが1本分しかないため、前なり後ろなりどちらか1方向への脱落は防げない
といった程度。いずれも、私自身が購入・使用する限りは気にしていない部分ですが、コスパの良さに気を取られて見過ごしてしまうと、あとでガッカリということも人によってはありうる点ですので、気になる方はお店で実機を確認するのがいいでしょうね。
次回は、このレンズをサーキットに持ち込んで実写での使い勝手や画質についてレポートします。