オリンパスE-M1およびE-M1 MarkIIは、撮像センサーに位相差検出方式のAFセンサーを備えた像面位相差AFが使用されています。簡単に言ってしまうと、従来の一眼レフカメラと同じAFの仕組みをミラーレスカメラで使えるようになったということです。モータースポーツ撮影に関しては、動く被写体へのAFがより正確になるという効果があります。
前回までのエアレースの撮影のなかで、E-M1 MarkIIのファームウェアVer.2.1でAFの改善を実感できたので、購入直後に行ったAF性能テストをもう一度おこなってみました。今回はフォーサーズレンズとの組み合わせです。
前回の旧フォーサーズレンズを装着したAF性能テスト(ファームウェアVer.1.1)でも十分使えることを確認したのですが…
精度も追従性もいいことをお伝えしたかったんですが、それよりも流し撮りの時の手ブレがちょっとひどかったのが個人的には心残りだったので、そのリベンジも兼ねてのレポートです。
なお、このテストの後に8/30付けでファームウェアVer.2.2が公開されましたが、AFに関しては今回紹介するVer.2.1と同様です。
テスト方法と機材について
前回のテストからの変化を比べやすくなるように、可能な限り前回と条件を揃えました(一部異なる部分もありますが)。
E-M1markIIのAFをおさらい
最初に、E-M1markIIのAFには3つのモードがあるので、それぞれの動作をおさらいしておきましょう。
モード | 操作と動作※ | 連写時の動作 |
---|---|---|
S-AF(シングルAF) | シャッターボタンを半押しすると、その都度1回だけAFターゲットにピント合わせ(フォーカス)する。ピントが合う(合焦する)とピッと音が鳴る。シャッターボタンを押し込むとそのピント状態でシャッターが切れる(レリーズする)。 | 連写モードの場合、そこからシャッターボタンを押し続けると同じピント状態でレリーズし続ける。 |
C-AF(連続AF) | シャッターボタンを半押しするとAFターゲットにピント合わせを行い合焦するとピッと鳴る。その後、半押している間中はフォーカスし続ける。シャッターボタンを押し込むとその時のピント状態でレリーズする。 | 連写Lモードの場合、シャッターボタンを押し続けるとレリーズとレリーズの間もフォーカスし続ける。連写Hモードの場合、最初のピント状態から変わらずレリーズし続ける。 |
C-AF+TR(追尾AF) | シャッターボタンを半押しするとAFターゲットにいる被写体にピント合わせを行い合唱するとピッと鳴る。その後、半押ししている間中は最初にフォーカスした被写体の移動に合わせてAFターゲットも移動しフォーカスし続ける。シャッターボタンを押し込むとその時のピント状態でレリーズする。 | 連写のときの動作はC-AFと同じ。 |
※デフォルトのボタン設定を前提とした説明です
また、ピントを合わせるためのAFターゲットについては、ファームウェアVer.2.0以上では5つのモードから選択できます。
モード | 選択画面 | 選択方法と動作 |
---|---|---|
オールターゲット | すべてのAFターゲットからカメラが自動的にターゲットを選ぶ。隣り合った複数のターゲットを選択することがある。 | |
シングルターゲット | 1つのAFターゲットを手動で選ぶ。 | |
NEW! スモールターゲット |
シングルターゲットよりも1まわり小さいAFターゲットを手動で1つ選ぶ。C-AF+TRでは使用できない。 | |
5点グループターゲット | 手動で選択した1つのAFターゲットと、それを中心とした上下左右1枠分の合計5つのターゲットからカメラが自動的に1つのターゲットを選ぶ。 | |
9点グループターゲット | 手動で選択した1つのAFターゲットと、それを中心とした周囲1枠分の合計9つのターゲットからカメラが自動的に1つのターゲットを選ぶ。 |
今回は、スモールターゲットと5点グループターゲットを使用しています。
オールターゲットはカメラが自動で選択するために必ずしも狙った被写体にターゲットが合わない場合があります。構図を決めて画面の特定の位置に被写体を配置してピントを合わせたい場合にはむきません。
ファームウェアVer.2.0からはスモールターゲットが使えるようになりました。シングルターゲットよりもさらに的を絞ってピント合わせを狙うことができそうです。ただし、C-AF+TRでは使えないため、C-AF+TRのテストでは5点グループターゲットを使用しています。9点グループターゲットよりも範囲をせばめてピント合わせを狙います。
テストの方法
被写体とロケーション、撮影モード
今回はツインリンクもてぎで行われた(8/19もてぎ2&4)スーパーフォーミュラのフリー走行と決勝レースを走るマシンがS字2個目出口付近を通過するところに向かってコーナーアウト側スタンドから流し撮りしました。前回の被写体がスポーツ走行枠の箱車でしたから、それより50〜100km /h程度はスピードレンジ速い状態となり条件は今回の方が厳しいですね。
ポイントは、マシンがS字1個目から2個目を抜けていく加減速に対するAFのスピードや動体追従性能となります。
S-AFでは、S字2個目立ち上がり前後でシャッターボタン半押し、フォーカス音(ピッという音)を聞いたらそこからシャッターボタンを押し込んでレリーズします。
ここだというポイントにマシンがきた瞬間から実際に撮れるまでは、AFとシャッターの動作時間だけでなく、ファインダー(EVF)の表示タイムラグとフォーカス音を聞いてシャッターボタンを押すまでの反射時間が加わるので厳密にAF速度だけを評価しているわけではないですが、ミラーレスシステムの基本的な動作ですから、システムとしての実用上のスピードとして評価します。
C-AFおよびC-AF+TRでは、S字1個目立ち上がり後からフォーカス開始し、2個目立ち上がり前後でシャッターボタンを押し込んでレリーズします。S-AFと同じく単写でEVFの表示タイムラグとシャッターボタンを押すまでの反射時間がのっかるものの、最初からフォーカスし続けている点が異なります。
C-AF+TRでは連写でもテスト。連写LモードでS字1個目立ち上がりから2個目の立ち上がりまでを連写で撮影します。画面内の被写体を追尾するのが特徴ではありますが、画面を固定することはせずに被写体の動きにあわせてレンズを振ります。流し撮りでは被写体の動きに対してあらかじめ決めたおおよその構図を合わせることが大切だと思いますが、S-AFやC-AFのように固定したAFターゲットに被写体を合わせ続けることに気を取られる場合には、C-AF+TRに任せることができればより構図に集中できます。
撮影画像の確認
こちらも前回と同じく、画像は以下の条件でRAW現像して評価しました。
現像条件
Olympus Viewer3(バージョン:2.1.0)
アートフィルター:なし
露出補正:0EV
ホワイトバランス:オート
仕上がり:Natural
ハイライト&シャドウコントロール:OFF
階調:標準
コントラスト:0
シャープネス:0
彩度:0
収差補正:色収差R/C、B/Yともに0
ノイズフィルタ:標準
偽色抑制:自動、孤立点除去0
カラー設定:sRGB
機材について
本体とその設定
E-M1 MarkII本体は流し撮りに必要な設定を中心に適宜選択しています。
ファームウェア:Ver.2.1
撮影モード:シャッタースピード優先
露出補正:0EV
ホワイトバランス:オート
仕上がり:Natural
ハイライト&シャドウコントロール:OFF
階調:標準
コントラスト:0
シャープネス:0
彩度:0
AFターゲットモード:スモールターゲット
※C-AF+TRでは5点グループターゲットを使用
手ブレ補正:OFF
LVブースト:On1
EVFフレームレート:高速
使用レンズ
前回と同じレンズを使用します。×1.4のテレコンバータと合わせて使用しました。
オリンパス ZuikoDigital ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD + EC-14
フォーサーズ時代はハイエンドのSHG、ハイアマチュア向けのHG、リーズナブルなエントリ向けSTDでレンズ群が構成されていましたが、特にHGレンズのコストパフォーマンスは評価が高いものでした。ZD ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDもその一つ。
フォーサーズ初期に発売され画質に定評のあったZD ED 50-200mmの改良版として、超音波モーターSWDでAF速度を向上したモデルで、E-M1markIIでも実用的なAF速度を発揮してくれるので現在中古価格がこなれていることを考えるとコストパフォーマンスはピカイチだと思います。
テスト結果
撮影した結果をご覧いただく前に…
今回掲載している画像は、特に記載しないかぎり等倍画像あるいはそれに近いサイズの画像(最大17MB/枚)にリンクしています。
通信速度や容量に制限があるモバイル環境などでは、画像の閲覧に著しく支障があるかと思われます。固定回線などの速度と容量に余裕のある環境での詳細閲覧をおすすめします。
S-AFでのAF性能をチェック
では、S-AFでのテストから。
シャッタースピード1/500sはモータースポーツ撮影では被写体を止めて撮る部類ですが、SFにあってはタイヤ&ホイールの回転する様子は写るので初めての撮影でもおススメのシャッタースピードですね。
焦点距離283mmは、望遠端200mmをEC-14で伸ばした時のEXIFの値です。35mm換算で566mm相当ということになります。
フォーミュラカー撮影のポイントとしてドライバーのヘルメットにピントやブレの中心を合わせることが挙げられますから、今回は全てヘルメットにAFターゲットを合わせてみます。
トムスにJ.P.オリベイラ選手が乗ってる(笑)。WECのスケジュールとダブルブッキングしてしまった中嶋一貴選手に代わってのスポット参戦でした。
画像は、最初の写真のヘルメット周辺を等倍で切り出したものです。
ヘルメットのカラーリングにある細い線やバイザー上のTOYOTAロゴなど読める程度にピントが合っていると思います。また、モノコックの「ネッツ多摩」やFサスプッシュロッド付け根あたりまでピントが合っているあたり、被写体深度が深いマイクロフォーサーズらしく、望遠でも使いやすいですね。一方で、背景はモヤモヤしていますが、これは路面から陽炎が上がっているためです。
E-M1 MarkIIとなって2000万画素に突入したので、これくらいの大きさでマシンを撮ることができれば、トリミングしても満足のいく解像度の写真ができあがるでしょうね。
今度は1/250s。冒頭書いたように、フォーカス音を聞いてからレリーズしていますが、この間もレンズを振り続けているので(フォロースイングも含めて)、この写真のように実際に撮れているヘルメットの位置はフォーカスした画面中央から動いています(要するに早くレンズを振りすぎた)。
なので手ブレが入っていますが、ヘルメットカラーの細いラインや、モノコックのHONDAのロゴなど、ピントが合っているのは確認できます。
シャッタースピードを1/125sから1/30sまで、倍にしていきながら3枚。シャッタースピード優先モードでISOは変えず、NDフィルターもつけないままなので絞りが絞られていくことになります。
スローシャッターになっていくのにともない、ノイズがのったような画像の荒れが1/30sで見えますが、これはブレのせい。ピントについてもレリーズからの時間が長くなる分、少しずつピントがずれていますが、被写界深度の範囲内ではないでしょうか?
S-AFについて
前回のファームウェアVer.1.0と比べて目立ってAFの速さを感じることはないので、EVF〜AF〜撮像までの一連のシステムとしての動作に変化はないようです。精度については、若干良くなったかなと感じます。これにはスモールターゲットが効いている可能性があります。
E-M1 MarkIIのフォーサーズレンズでのAFスピードは、一眼レフ時代ほどではないにしても充分に速いAFという評価は変わらず、スモールターゲットが追加されたことでピンポイントで狙いやすくなって精度アップが期待できるようになりました。
また、前回もコメントした、ウォブリング(ピントが行ったりきたりしながらフォーカスする)動作はVer.2.1でもありません。
C-AFの場合をチェック
今度はC-AFで、先ほどと同じようにシャッタースピードは1/500sから落としていきます。
同じくヘルメット周辺にAFターゲットを合わせましたので、等倍切り出してみると、ピントが出ていることが確認できます。先ほどよりももう少し手ブレが抑えられたおかげか、バックミラーにカーボンの織目が確認できます。
S-AFのときと同じように、1/250s〜1/60sまでを段階的にスローシャッターにしてみました。1/30sはやっぱりブレブレだったので割愛していますが、1/60sでもしっかりブレブレ(汗)。
ただし、ヘルメットカラーの細かい模様や文字は確認できるレベルかと思います。精度的なものは、S-AFと特に差を感じません。
C-AF+TRの場合をチェック
今度はC-AF+TRで被写体追従を試してみます。
こちらもシャッタースピード1/500sから落としていきます。
やっぱり1/500sなら手ブレは目立たないので評価しやすい(汗)。細かい文字や、おそらくタイヤのサイドウォールのマーキングがモノコック側面に写っているのも確認できます。
1/250sでも手ブレが抑えられてよかった。ちょっと早めにレリーズしてしまいましたが、加速度が大きく変化するクリッピングポイント付近でもしっかり追従してピントが合っていることがわかります。
シャッタースピード1/125sでも手ブレわずかにできました。クリッピングポイント直後でスロットルを開けていく局面ですね。ヘルメット、バイザー、モノコック、それぞれのスポンサーロゴでピントが確認できます。
シャッタースピード1/60sまで落としましたが、さすがに1/60sはブレる。ですが、C-AF単独と同等程度にはいいピント精度で追従できています。
C-AFではAFターゲットをヘルメットに合わせ続けないといけませんが、C-AF+TRでは最初にヘルメットにAFターゲットを合わせてしまえば、画面上を極端に動きまわらない限りは追従してくれるので被写体全体の動きを把握してレンズを振りやすく、結果として手ブレが減っているようです。
次に、前回と同じように連射での被写体追従性のチェックです。スーパーフォーミュラであることを考慮して前回は1/125sでしたが1/250sで挑戦します。
まず、連射の最初と最後の一枚ずつをトリミングなしでご覧ください。
さきほどと同じように、ヘルメットにフォーカスするように狙っていきます。今回も1920x1440ピクセルでトリミングしたものを4x3枚並べたもので連射を確認します。
1枚目を見るとわかるように、離れていて被写体が小さいのと陽炎のせいでヘルメットを狙いにくいですが、おおよその位置でAFをスタートさせます。
S字1個目を立ち上がってから2個目にアプローチする手前まで(1枚目〜4枚目)、陽炎でヘルメットはモヤモヤしながらもマシン全体にはピントが合って追従してくれています。
陽炎はランオフエリアや手前のS字立ち上がりのアスファルトからのようです。陽炎の影響が小さくなった2個目アプローチからはヘルメットにピントが合っていて(5枚目〜7枚目)、千代選手のスポンサーである「エイブル」の文字が等倍なら読める程度です。
クリッピングポイントについてマシンが旋回し、画面左→右の減速から右←左への加速に変化する瞬間はバツとしていますが、ピントが外れたのではなく、マシン旋回にレンズの振りがうまく追従できなかった方が大きいです(8枚目)。
その証拠に立ち上がりからは再びピントが合っています(9枚目〜11枚目)。最後についてもレンズのフォロースイングがいまいちでマシンを追いきれていないので撮り手の問題ですが、結果的にサイドポンツーンのB-MAXロゴがちゃんとピントが合っているのが確認できます(12枚目)。
やはり、C-AF+TRだと流し撮りに必要なレンズを振る動作に集中しやすいように思います。前回との比較でいうと、前回50%程度の歩留まりに対して70〜80%まで歩留まりが良くなった感じですね。
C-AFについて
やはりファームウェアVer.2.0の発表にあったように、C-AFまわりの改善が実感できました。特にC-AF+TRは追従性が良くなってカメラ任せにできる分、構図やレンズを振ることに集中できる感じ。追従感度をチューニングして追い込めば、さらに効果が期待できます。
前回も書きましたが、一番精度が期待できるC-AFのAFターゲット1点に集中して撮影するのは、その1点に合わせて動きをトレースするのが難しく、上級者向けですが、使いこなせばこれが一番のはず。
一方、Ver.2のC-AF+TRは、ほしい画に対する歩留まりがよくなるはずです。
まとめ
ファームウェアVer.2.1で純正フォーサーズレンズのAF性能をテストしましたが、Ver.1.0からさらに使いやすくなりました。
特にC-AF+TRの追従性の向上が、流し撮りに必要な構図を意識しながらもレンズを被写体の動きに合わせて振るという動作に集中させてくれるので、歩留まり向上が期待できます。今回はプレーンな設定でしたが、さらに被写体に合わせた設定を詰めていけばより使いやすくなると思います。
オリンパス純正フォーサーズレンズを使用している限りは、マウントアダプターを介して古いレンズを使っているというような感じはまったくありませんしそれだけの画質とAFスピードをZD50-200mmSWDは持っています。
そのうえで、ネイティブなマイクロフォーサーズ環境、つまりMZD.PROレンズを味わってみると、さらなる高みが望めるのですが、それは次回以降にあらためてご紹介するつもりです。