超高倍率のズームレンズとして使い勝手のいい、オリンパスのマイクロフォーサーズレンズ M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3ですが、望遠端200mm(35mm判換算:400mm)は、モータースポーツ撮影においてもとても使いやすいレンズで、以前もD1グランプリの撮影で紹介しました。
今回は、同じく200mmをカバーするフォーサーズレンズのミドルレンジモデルZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5との画質比較を中心に、サーキット撮影での使い勝手について紹介します。
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オリンパスレンズで望遠200mmは意外と選択肢が少ない
観戦エリアからマシンまでの距離が離れているモータースポーツの撮影には望遠レンズが欲しくなります。
焦点距離の観点でレンズを選ぶ場合におおよその被写体が画面におさまる大きさの計算ができること、その点でズームレンズは自由度が高いというお話をしたことがあります。
このときも200mm以上で特定のマシン1台を画面に大きく写せる目安として紹介していますが、オリンパスのマイクロフォーサーズレンズには、単体で200mmをカバーする望遠レンズは意外と少ないのです。
現在新品購入できるモデルでいうと、
- M.ZUIKO DIGITAL ED 75-300mm F4.8-6.7II
- M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
の2本のみ。テレコンと合わせる場合なら
- M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
もレンジに入ります。価格的にはメーカー通常価格ベースで5〜8万円おきに綺麗にバラけています。
画質だけで言えばED 40-150mm F2.8 PROなのは間違いないのですが、ED 12-200mm F3.5-6.3はこの中で一番新しく、コストパフォーマンスは良好です。
一方、マウントアダプターを利用して旧フォーサーズレンズを使用する手もあります。200mmをカバーするのは、
- ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
- ZUIKO DIGITAL ED 70-300mm F4-5.6
- ZUIKO DIGITAL ED 90-250mm F2.8
の3本に、テレコンと合わせた
- ZUIKO DIGITAL ED 35-100mm F2.0
- ZUIKO DIGITAL ED 150mm F2.0
の2本を加えた5本までレンジに入ってきます。マイクロフォーサーズに移行して久しい現在だと、いずれも中古価格が下がってきました。
例えば、ZUIKO DIGITAL ED 50−200mm F2.8-3.5 SWDだとメルカリなどでは3万円弱〜5万円強といったあたり。
こうなると、普及価格帯のマイクロフォーサーズレンズ(無印のM.ZUIKO DIGITALレンズ)と、それよりも安くなった当時のハイグレードレンズの画質や使い勝手次第では、中古ハイグレードレンズの方がコスパがいいかもしれません。
そこで今回は焦点距離200mmをカバーするマイクロフォーサーズレンズと旧フォーサーズレンズをサーキットで比較してみました。
比較テストの機材と撮影方法について
機材について
使用カメラ
オリンパス OM-D E-M1markII Ver3.1
前回のED 12-200mm F3.5-6.3のレビューではファームウェアVer.2.1でしたが、今回はVer.3.1にアップデートして行ないました。Ver.3.1のモータースポーツ撮影にまつわる大きな変更は、AFの改善です。
使用レンズ
オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
2019年3月発売のマイクロフォーサーズ専用レンズ。広角側12mmから望遠側200mmまでをカバーする16.6倍の高倍率ズームレンズ。
オリンパスマイクロフォーサーズ用レンズのラインナップの中では、PROグレードでもPREMIUMグレードでもないスタンダードグレードに属するレンズです。
鏡胴はじめ外装のほとんどがエンジニアリングプラスチック製なのがスタンダードグレードの所以なのでしょうが、これだけの高倍率ズームにもかかわらず防塵防滴仕様でウエットコンディションでも安心。
画質的には前玉にフィルタ径72mmを奢っていて、100mmレンジまではPROグレードのED 12-100mm F4.0 IS PRO同等とも言われることがある高画質です。
オリンパス ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
2007年11月発売のフォーサーズ専用レンズ。同社初の超音波駆動方式SWD(スーパーソニック・ウェーブ・ドライブ)によるAFシステムを搭載したレンズで35mm判換算で100-400mm相当のズーム域をカバー。
オリンパス フォーサーズレンズのラインナップでは松竹梅のうちの竹に相当するハイグレードレンズとして、防塵防滴と超音波モーター駆動AF、3枚のEDレンズなどのハイスペックを持ちながら、メーカー通常価格¥140,000というコスパ。
当時のフラッグシップモデルE-3/5との組み合わせで爆速AFでした。画質ももちろん、画角の隅までクリアで解像感の高い描画性能です。
テスト方法
被写体とロケーション
テストは、ツインリンクもてぎで行われたS耐久のマシンを撮影して行いました。
ロケーションとしては、S字コーナーおよびヘアピンが見渡せる観戦エリアからの撮影です。
撮影は、多くの方が普段サーキットで撮るであろう構図、シャッタースピードを中心に、なるべく同じマシン、同じ車種を選んで行いました。
撮影条件
E-M1 MarkII本体は流し撮りに必要な設定で基本的にRAW撮影しています。
ファームウェア:Ver.3.1
撮影モード:シャッタースピード優先、連写L(10fps)
露出補正:0EV
ISO:200
AFモード:C-AF+TR
AFターゲットモード:5点グループターゲット
AF追従感度:-1
C-AF中央スタート:5点グループターゲットで有効
手ブレ補正:IS-AUTOまたはIS-2(縦ブレのみ補正)
LVブースト:On1
EVFフレームレート:高速
※その他の設定はOFFまたは標準としRAW撮影
撮影画像の確認
画像は以下の条件でRAW現像してJPEG画像で評価しました。
現像条件
Olympus Workspace(バージョン:1.1)
アートフィルター:なし
露出補正:0EV
ホワイトバランス:5300K
仕上がり:Natural
ハイライト&シャドウコントロール:OFF
階調:標準
コントラスト:0
シャープネス:0
彩度:0
収差補正:色収差R/C、B/Yともに0
ノイズフィルタ:OFF
カラー設定:sRGB
テスト結果
それではテスト結果を見ていきましょう。画像は次の順番で並べています。
- 最初の1枚は、ノートリミングの画像を1440×1080ピクセルでJPEG出力したものにリンクしています。
- 2枚目に、1枚目のフル解像画像(5184×3888ピクセル)を1440×1080ピクセルにトリミングしたものにリンクしています。
- 使用レンズは、1枚目の画像中にキャプションを入れています。
- それ以外の撮影条件は画像下のキャプションに記載しています。
まず最初に、一番多く撮影されるマシン横の流し撮りから。2019シーズンからS耐久ST-Zクラスに参戦しているKTM X-Bowを、S字コーナーから立ち上がってV字へ向かうストレートで撮影。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
望遠端の200mm、シャッタースピード1/250sというオーソドックスな条件で撮影しました。タイヤの回転、背景の流れ方など、十分な流し撮りといえるでしょう。
等倍画像です。若干の手ブレがあるものの、ボディカウルのカーボン地の模様や順位表示LEDなどの細部、ドライバーのヘルメットがのぞくコックピット内などがちゃんと撮れています。また、ルーフとその背景などを見ると、コントラストがしっかり出ていることがわかります。
ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
ED 12-200mm F3.5-6.3と同じ望遠端200mmでの比較です。設定を覚え違えてこちらは1/125sでの撮影になりましたが、比較可能かと思います。
等倍画像。ボディカウルのカーボン模様、順位表示LED、ドライバーのヘルメットなど、しっかり解像しています。こちらの方が若干解像感、コントラスト感がはっきりとしているように見えますが、おそらくこちらの方が手ブレが少なかったからでしょう。写りとしては同じと考えられます。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
シーンを変えて次はヘアピンを立ち上がるアウディRS3 LMS。ST-TCRクラス車両です。先ほどと同じように200mmで撮影。1/320sということもあり、絞り解放のF6.3となっていますが、この条件だと画面四隅に周辺減光が見られます。このレンズの多くのレビューで言われているのが、この絞り開放での周辺減光。少し絞れば、最初のX-Bowの写真ようにそれほど周辺減光は目立ちません。
等倍画像では、ボンネットキャッチピンやボンネット上のエアインテイク内のメッシュなどでディテールの解像感が確認できます。
ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
車種は同じですが、チーム違い、構図違いとなっています。ED 12-200mm F3.5-6.3のような周辺減光はもちろんありません。同じような露出条件ですがED 12-200mm F3.5-6.3にとっては絞り開放でも、ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDにとっては開放から少し絞り込んだ条件であり、解像感等には有利になっています。
手ブレも少なかったためにディテールの解像感もしっかり出ています。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
今度はヘアピン進入のブレーキング時の撮影を比較します。条件はさっきのアウディと同じです。真横からで速度も低いので流し撮りしやすく、ノーズからテールまでほぼブレなく撮れました。背景のおかげもあって、周辺減光はさほど目立っていません。
こちらの比較ポイントはドア下部のスポンサーデカールとLED、コックピット内のディテール。ブレなくピントも合えば、かなりクリアな解像を得ることができます。
ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
車種は同じですがチーム違いです。天候の関係で今度はこちらも絞り開放となりました。さすがフォーサーズ時代のHGレンズだけあって絞り開放からクリアでシャープな印象です。周辺減光などもなく画面全体で高画質。
等倍画像を見て若干の手ブレがあることに気づくわけですが、それでも全体として解像感はしっかりしています。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
他の写真が曇りがちだった金曜日の練習走行での撮影なのに対して、この写真だけ晴れた日曜日に撮影したため露出条件が違いますが近いもので比較。Sを抜ける様子を100mmからスローシャッターで撮影しました。
スローシャッターによる手ブレがあるため、厳密な解像力の評価は難しいものの、100mmの画角で各種スポンサーデカールのディテールは認識できるレベルで解像感があるといえます。また、ヘッドライトレンズに反射した光条が、この画角でも綺麗に撮れている点は画質としてプラス評価できる点でしょう。
ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
同じようにS字コーナーを100mm相当で比較します。天候の違いがあるもののほぼ同じ露出条件です。
等倍でみると、スポンサーデカールだけでなく、グリルやボデイパネルのラインなどディテールがクリアでクッキリしています。100mm画角の比較に関しては、ED 12-200mm F3.5-6.3の方が天候の条件的に厳しかった(ちょっと明るすぎて白飛びしがちな条件だった)かなと思います。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
今度は場所をヘアピン前のストレートに移して、東コースピットを前ボケにスローシャッターに挑戦します。焦点距離は先ほどと同程度の100mm付近。1/15sを狙うにあたってNDフィルターなしのためF20まで絞られています。
さすがに被写体がこの大きさで、スローシャッターとなると、レンズの解像力よりも手ブレの影響の方が大きいでしょうが、ひょっとしたら小絞りボケもあるかもしれません。ですがスポンサーロゴが十分認識できるレベルではあります。
ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
同じような露出条件で、同じ手ぶれ補正設定で、同じようにレンズを振るものの、なぜかED 50-200mm F2.8-3.5の方が手ブレの少ない写真が撮れる確率が高いようです。こちらの方が、フォーサーズ時代からずっと使い慣れてきたところもあるでしょうが、カメラとの重量バランスがいいのかもしれません。一方のED 12-200mm F3.5-6.3はコンパクトにまとまって軽い分、細かいブレを拾いやすのかもしれません。
この画角、この大きさ、このシャッタースピードで、ここまでちゃんと撮れるのは私の撮影技術では珍しいケースです(汗)。スポンサーデカール、フロントグリルなどのディテールがちゃんと解像しています。また、マシンと背景の際でのコントラストもしっかりしていることがわかります。
まとめ
画質で比べればいまだにフォーサーズHGレンズが上
単純な光学性能としてのスペックでみれば、当然ED 50-200mm F2.8-3.5 SWDの方に分があるわけで、それを裏付けるテスト結果になりました。
一方のED 12-200mm F3.5-6.5は、コンパクトな光学系で、画面周辺の画質をソフトウェアで補正してカバーするため、一部の条件では周辺画質に無理が出ています。ここを上手く使えば、PROレンズ譲りの高い解像感をえることができます。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
絞り開放での周辺減光や小絞りボケの可能性がありますが、開放から少し絞り込んでやればクリアな解像感とコントラストが得られることがわかりました。レンズのおいしいところをどう使うかがポイントになりそうです。
多くのレビューではこのレンズの望遠端200mmの解像感はそれほどでもない(ED 12−100mm F4.0 IS PROと比べれば)といわれるものの、おいしいところで使えばフォーサーズ時代のHGレンズに決して引けを取らないレベルです。
安物レンズにありがちな色の滲みのようなものが見受けられなかったことも好印象です。
AFに関してはピンボケや被写体追従遅れなどの問題はなく、普通にモータースポーツ撮影で使えるレベルです。
PROレンズよりもコンパクトなところは武器で、相対的に軽すぎてブレを誘発しやすいところに注意すれば、クリアな画質で流し撮りを楽しめます。
ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5 SWD
撮影条件によらず楽にいい画が撮れるという点で、今は中古しかないものの逆にコスパに優れているといえます。
ただし、今回E-M1markIIのファームウェアがVer.3.1になって初めてのフォーサーズレンズでしたが、AF合焦からレリーズまでのタイムラグが大きくなった点がネックです。
合焦音のあとシャッターボタンを押し込んでもワンテンポ遅れてレリーズされます。おそらくは絞りの動作タイミングが遅くなっています。
これはVer.2の時点でも指摘されており、価格.comの機種別掲示板で次のようなスレッドで議論されました。
Ver.2の時点では連写Lでの連写枚数がマイクロフォーサーズレンズ使用を前提としたE-M1markIIのスペック通りでないという趣旨からスタートしており、私も検証してみた範囲では連写速度の遅れとして実感していましたが、Ver.3以降では、それがさらに遅くなった印象です。
E-M1XベースのAFアルゴリズムは、フォーサーズレンズでも有効で、動体追従性がとてもよくなったのを実感できましたが、合焦からレリーズまでの動作速度の点では、フォーサーズレンズとの親和性が下がったように思われます。
この点で、E-M1X /M1markIIでZUIKO DIGITAL ED 50−200mm F2.8-3.5 SWD を使うことは誰にも簡単にオススメできない状況です。E-M1系を使う中級者以上であれば、このタイムラグを見越した操作も可能ではあります。
使い勝手と画質のバランスで12-200mm
以上のように、ハイグレードレンズに肉薄する画質でE-M1markII本来のAF/連写スピードを活かせる使い勝手を持つ、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 は、サーキットで使う望遠レンズとして十分有望な選択肢です。
特にカメラマンエリア以外での望遠レンズ使用に制限があるF1日本GPでは、通常エリアでも流し撮りが楽しめるレンズとしてオススメです。
(おそらく、フォーサーズレンズのサポートは今後下火になっていきそうです。私もそろそろマイクロフォーサーズで整えようかなという感じですね)