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大洗エアショーからE-M1markII Ver3.1のエアレース用設定を考える

2019年9月3日

7月27日に茨城県大洗町で行われたエアショーに撮影に行ってきました。レッドブルエアレース千葉を控え、参戦中の室屋義秀選手による曲技飛行ですから、アマチュアカメラマンにとっては格好の練習機会となりました。

今回は、新ファームウエアとして6月に公開されたVer3.1にバージョンアップしたE-M1markIIを持ち込んで撮影しました。機能アップしたAFまわりを中心に、エアレース向けの撮影設定について考えてみます。

大洗エアショーについて

大洗町といえば、人気アニメ『ガールズ&パンツァー』ですっかり有名になりましたが、まさにこの仕掛け人たちが用意した夏のイベントの目玉の一つです。

毎年夏には大洗の海水浴場を舞台に花火大会が催されており、昼間のうちから場所取りができるような地元で人気のイベントなのですが、同日の昼間の目玉イベントとして設定されました。

室屋義秀選手は、すでに5月2日に南紀白浜エアショーを実施しており、レッドブルエアレースでワールドチャンピオンとなってからは積極的にエアショーを開催、参加しています。それだけに今年限りでレッドブルエアレースが終了するのは本当に残念…。

撮影ロケーション

大洗サンビーチ

大洗港の南東側に位置する海水浴場は、大洗サンビーチの愛称で親しまれ、地元をはじめ北関東から多くの海水浴客が訪れるスポットです。公共のシャワー施設やかなりの台数収容できる駐車場が整備され、砂浜がひろく、複数のビーチバレーコートなども備えています。

エアショー当日は前日までの台風6号の影響で風が強め、その後も熱帯低気圧に変化したため雲もかなり残っていましたが、その上には青空。もちろん海水浴にピッタリの暑さでしたから水着姿の海水浴客もたくさんいたのですが、今回のエアショー撮影の客は、ビーチセンター(東日本震災後に建設された津波避難施設、平時は海水浴客のための救護所やイベント会場となっている)前に撮影可能エリアとして指定されていました(カメラ持って水着姿の海水浴客の中をウロウロ、というのはいろいろ誤解もあるだろうし、という配慮だと思われます)。

f/2.2 1/4525sec ISO-25 4.15mm

ご覧の通り、エアショー観覧と撮影が目的の人たちしか画面にはいませんから、全然海水浴場感がないw

使用機材とその設定

使用機材

今回はレッドブルエアレース本番のためのテスト撮影を目的にしているので、当日使用予定のE-M1markIIとサンヨン+テレコンを持ち込みました。



f/6.3 1/400sec ISO-64 300mm

実はサンヨンは今夏初登場だったのですが、いつみても解像感と圧縮効果が素晴らしい。そして、陽炎の影響をあまり受けない。フォーサーズフォーマットの恩恵を一番受けることができるのはやはり望遠かなと思います。

E-M1markIIファームウェアVer3.1向け設定ポイント

6月末にE-M1Xの機能の一部を利用可能にしたE-M1markIIの新ファームウェアにバージョンアップしました。それまでのE-M1markIIの設定については、下の記事で紹介したもので、2018年のエアレースでも同じ設定で撮影しています。今回はVer3.1で追加されたC-AFの設定について追加します。

C-AF中央スタート/中央優先

C-AFおよびC-AF+TR使用時、複数ターゲット使用の設定でも、最初のフォーカス時に必ず中央のターゲットフレームを使用してC-AFを開始するのが「C-AF中央スタート」です。これを設定することで、動く被写体の狙った位置でC-AFを始めることができます。これはどのターゲットモードでも有効にしておいてよいでしょう。

一方、C-AF中に中央のターゲットフレームの情報を重視してまわりのターゲットフレームを補助として扱うのが「C-AF中央優先」です。特にC-AF+TRを使用しているときの追従性が向上しています。こちらも全てのモードで有効にしておいて損はありません。

AFリミッター

以前にも紹介しているVer2以降の機能ですが、AFまわりで効いていくるのであらためて紹介。

E-M1markIIはマイクロフォーサーズレンズであれば、レンズ側にリミッターがなくてもAFセンサーの情報からAF制御にリミッターを効かせることができます。自分の前にいるフェンスや他の観客にAFが寄ってしまうことを下限値設定で防ぎ、高速で移動する被写体がAFターゲットフレームから外れた場合に背景にAFが飛んでしまうことを上限値で防ぐことができるので、エアレースやエアショーにはおすすめです。20〜580mが今までの千葉のエアレースで使った設定です。

 

変更点は少ないですが、AF-C中央スタート/優先が非常に効きました。E-M1XではAI技術を利用した被写体認識が強力ですが、E-M1XゆずりのAFアルゴリズムがE-M1markIIをパワーアップさせてくれました。

Ver3.1のAFで撮影したエアショー

エアショー自体は15分程度の内容でしたが、台風の影響を受けて雲と晴れ間が場所ごとに変わり、露出や色味が変わりやすいコンディションでした。画像はいずれもRAWで撮影後、Olympus Workspace1.1で現像しています。

f/13 1/250sec ISO-64 420mm

序盤の曇りがちな空をスモークオンで登場した室屋選手。機体はアクロバット専用機のExtra300とみられます。富士スピードウェイのSuperGT開催前のデモンストレーションで使用されたレクサスカラーとは別の機体。

エアレースほどの速度ではないため、まっすぐ飛行する間は比較的機体を追いやすく、AFもコックピットにちゃんとフォーカスできています。機体のシルバーは塗装ではあるものの輝度は明らかに背景の雲とは異なるので、AFが飛んだりすることもありませんでした。

f/9 1/400sec ISO-64 420mm

画面縦方向の移動も特に問題なくC-AF+TRが追従。機体には雲の切れ間から見える青空が映って、機体自体がメタリックブルーのようにみえます。実際には逆光気味でもう少し暗く写っていたのをRAWで露出補正しました。

f/13 1/250sec ISO-64 420mm

こちらも逆光気味に撮れたものをRAW現像時に露出を上げて機体の輝度をおこしていますが、輝度の高い背景が白飛びしない程度で機体を明るくするにはこれが限界。ISO64はE-M1markIIでは拡張感度の扱いですが、拡張感度ではハイライト側の階調再現性が悪いらしく、画面左側の雲は露出オーバーではないのですがベタ塗りのよう。

f/11 1/200sec ISO-64 420mm

こちらは太陽に雲がかかったところに機体を背面にロールさせながら飛んでいる様子を撮影。この複雑な動きでもしっかりと左翼の赤い雄牛にフォーカスできています。

ぼんやりと後光がさす前を室屋機がロールするというシーンを、機体のディテールを見せつつ、背景の雲のグラデーションも描きたいとなると、ハイライト側の階調が欲しくなります。トーンカーブで調整を試みるものの、ちょっとバランスを崩すとトーンジャンプしてしまう。ISO64の画質ではこれが限界のようです。

f/11 1/400sec ISO-64 420mm

ショーの後半に入ると青空の面積が増えてきました。降下する機体に100%合わせきれているわけではないので若干ブレは残っていますが、構図的に今回お気に入りの1枚です。空の青もどことなくオリンパス・ブルー。

f/7.1 1/200sec ISO-64 420mm

こちらも1/200sのためにブレは残っていますが、AFはしっかり室屋選手のヘルメットをとらえてくれました。

f/6.3 1/400sec ISO-64 420mm

機体を観客側に傾け手を降る室屋選手。1/400sはブレ少なく安定して被写体を追い続けられ、かつ、プロペラの回転ブレは残るので、これがちょうどいい設定かもしれません。海上を飛行する機体をほとんどの場合逆光で撮影するという難条件はレッドブルエアレース本番と同様。

f/6.3 1/400sec ISO-64 420mm

ファームウェアVer3.1になっても、離れていく被写体へのAF追従性はあいかわらず良好です。これはE-M1markII系AFセンサーの持ち味なんでしょうね。順光状態になったのもあってとても撮りやすかったです。

f/5.6 1/400sec ISO-64 420mm

かなり低く、近くを飛んできたので上手く画面に収められず、あとで3:2にトリミングしています。レッドブルカラーがカッコいい。

f/2.2 1/5128sec ISO-25 4.15mm

この一枚だけiPhone6sPlusで撮影したもの。スマイルマークを描いたのがわかったものの、レンズ交換が間に合わないとわかったのでとっさにiPhoneを出しました。青の再現がかなり違います(一応調整はしました)。

E-M1markII Ver3.1向けエアレース撮影設定について

以上のように、Ver3.1で追加したC-AF中央スタート/中央優先の設定ですが、C-AF+TRとの組み合わせでとても有効なことが確認できました。一方で、シャッタースピードを落とすために設定したISO64ではハイライト側の階調に乏しく、RAWで撮影しても調整しきれないことを今更ながら認識しました。

E-M1markII系のセンサーの画質について、『とるなら~写真道楽道中記~』さんで次のようなレビュー記事が読めます。


これらによると低感度はシャドウ側の画質を重視しているらしく、ハイライト側は白飛びのリスクがある。一方で常用感度はハイライト側を重視してシャドウ側がノイジーということです。これは今回経験したことと一致します。

レッドブルエアレースでは、海上を飛行する機体は西日を受けて逆光となりやすく、プラス側に露出補正しがちです。背景は露出オーバーになり、晴天の青空であれば青みが薄くなり、曇天の場合は真っ白に飛んでしまう可能性も出てきます。RAWで撮影して後で修正するためにも、本番ではISO200を選び、シャッタースピードを落としたい場合は、絞りを絞り込むか、NDフィルターで減光することを考えた方がよいようです。

これらをふまえ、撮影設定を次のようにしてエアレース当日に備えることにします。

【補足】レンズ解像度を活かすRAW現像(OlympusWorkspace1.1)

今回のファームウェアアップデートでさらにAFが良くなったので、解像感の高い写真が撮れましたが、これを活かすためのRAW現像についても検討しました。

f/6.3 1/400sec ISO-64 420mm

こちらが作例。順光で1/400sだったためディテールもしっかり撮れました。

f/6.3 1/400sec ISO-64 420mm

画像サイズ変更前のコックピット部分を等倍で切り出したもの(RAWからそのもので現像設定一切なし)。室屋選手のヘルメットのカラーリングやグローブのシワらしきものまで見えますが、さすがにやや被写体ブレか、ピンボケのように見えます。

f/6.3 1/400sec ISO-64 420mm

いろいろパラメータを調整してここまでディテールを出すことができました。コックピット内のほか、カウルのディテールもわかります。

手順としては、ノイズ除去→シャープネスで下地を作り、かすみ除去→明瞭度→アンシャープマスクでエッジ部を強調し、トーンカーブで色味を調整です。

まずはノイズ除去。あまりかけすぎない方がよいといわれるのでいつもは「弱」を選んでいますが、画像を見ながらやや強めに「標準」。日中の屋外の撮影のためシャドウ部が少ないのもあり、さほど気にする要素ではないかもしれません。

ノイズフィルタでダルになったエッジをみながらシャープネスを調整。こちらも今回の画像ではガッツリかけても大丈夫でした。これで下地は完成。

ここからは大きく色味やエッジの様子が変わっていきます。Olympus Workspaceから追加された「かすみ除去」はアドビのLightroomのそれと機能的には同じです。この画像ではほとんどかすみはかかっていませんが、背景の青空を際立たせるために設定しています。画像を見ながら5〜10ポイントずつ上げていって気に入ったポイントを見つけます。

こちらもOlympus Workspaceで追加されたパラメータで、やはりLightroomの同名機能と同じものです。エッジをはっきりと出すという効果としては、次のアンシャープマスクとほとんど同じながら、アンシャープマスクほどやりすぎて失敗しないので、「明瞭度」の調整までで終えてもいいかもしれません。こちらも画像を見ながらすこしずつポイントを上げていって決めます。

「アンシャープマスク」はエッジを際立たせて画像のシャープ感を出す効果が一番大きいパラメータですが、やりすぎて失敗しがちなので注意が必要です。最初に「強度」を200、「処理半径」と「しきい値」を0にして、そこから「処理半径」を0.1〜0.5ピクセルずつ上げていくと画像のエッジがはっきりしてきます。その次に「強度」を10〜20ずつ下げていきエッジ部周辺に違和感のないバランスを探ります。最後にエッジ部以外がギザギザしているようなら「しきい値」を1レベルずつ上げて調整します。

仕上げにトーンカーブで色味を調整。機体はシャドウ側の小さい山、背景は中間からハイライト側の大きい山にあります。背景の輝度を少し下げて空の青みを深く見せ、一方の機体の輝度は少し上げて逆光で暗くなった部分を際立たせます。

アンシャープマスクとトーンカーブについては、設定画面の見方も含め理解するのは難しく、私も上手く教えることができません(汗)
今回の一連の設定については、最近出た本が参考になりました。マニュアル程度かなと思いつつ買って読んでみたら、今回のような初心者以外にも役立つ内容が書かれているのでオススメです。Olympus Workspaceのヘルプファイルよりはずっと親切です。

いよいよ最後のレッドブルエアレースまで1週間を切りました。悔いのないよう、十分な準備で撮影に臨みたいと思います。

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